【愛の◯◯】辻邦生という頂(いただ)き

土曜

お昼まえ

戸部邸

 

ダイニングテーブルで、愛が本を読んでいる。 

 

このまえ、「本が読めない」って、おれに泣きついてきたけど、持ち直したんだろうか。 

 

「………」

 

たはっ、集中してんなw 

 

(ぱたん、と本を閉じる)

 

「読み終わったのか?」

「アツマくん」

 

「うん、読み終わったよ。

 ちょっと時間、かかったけど。

 

 久しぶりに、『小説を読んだ』、って思うことができた。

 いい作品を書くわね、辻邦生は…」

 

 

黄金の時刻の滴り (講談社文芸文庫)

黄金の時刻の滴り (講談社文芸文庫)

 

 

黄金の時刻の滴り (講談社文芸文庫)

 

つじくにおってだれだっけ

コラッ!!

 

「でも、ひさかたぶりに、読書した、って感じがする。

 

(背伸びをして)ふ~~っ」

 

愛の眼が、心なしか、うるんでいる。

読書することのよろこびを、ひさびさに味わったんだろう。

 

ーー本を読み終えるってことは、山をひとつ、乗り越えるようなことなのかもしれないな。 

 

 

 

「アツマくん」

「なんだい愛ちゃん」

「さいきん、本、読んでる?」

「(^o^;)ギクッ