【愛の〇〇】「あすか、どんな道を選んでも、文章を書き続けなさい」

きのうは、プロ野球でいろいろなことがあった日だった。

菅野がメッタ打ちにされているあいだは、おねーさんはひたすら爆笑しつつ試合中継を観ていたが、悪夢の7回表が終わった途端、非常に苦々しい表情で、テレビを消し、自分の部屋にひっこんでしまった。

 

ーーもちろんそういうことは、校内スポーツ新聞には書かない。

 

あ、

「校内スポーツ新聞には書かない」というのは、わたしがわたしの高校のスポーツ新聞部で、野球やサッカーの記事を書いている、ということに関連しての話。

 

とうぜん、

『なんで校内スポーツ新聞なのに、プロ野球の記事書こうとしてるんだよ!?』

というツッコミが入りそう。

 

ーーその通り。

 

ま、中村創介(そうすけ)部長になり代わって言い訳すれば、「校内スポーツ」で特に書くことがないときは、プロ野球Jリーグなどの記事で紙面を埋めるのです。

 

× × ×

わたしは、新潟・エコスタでの巨人の7回表の大逆転劇、神宮・ヤクルトー阪神戦における岩田の青木に対する危険球に起因する乱闘未遂騒ぎ、楽天の逆転サヨナラ勝ちなどについて書き、サッカーに関しては、サンフレッチェ広島広州恒大にホームゲームで勝利し、ACL16強入りを決めたことを強調して書いた。

 

× × ×

 

放課後

スポーツ新聞部

 

「すごいねえあすかさんは。ひと晩でこんだけの情報量を記事にできるなんて」

 

部長に、ほめられた。

 

「へへへ…それほどでも」

「文才があるんじゃないかな」

「えっ!?」

 

「まぁ、文才があるある〜って、君によけいなプレッシャーを与えるのは逆によくないけど、ね。

 あすかさん、君は当分球技担当とプロ野球・プロサッカー速報担当だよ」

 

大丈夫かなぁ…w

 

わたし、お兄ちゃんやおねーさんと違って体力、自信ないんだけども。

 

× × ×

 

「ところで、中村部長の担当って、テレビ欄と芸能面だけなんですか?」

「うん」

「す、スポーツは!?」

「僕はコーディネイター役」

「……」

 

『何でもありなのかお前らの学校の校内スポーツ新聞部は』って、言われそうだけど、実際その通り。

 

但し書きしておくと、中村部長の制作するテレビ欄は、正確で情報量が多い。

そこだけ読むっていう生徒も少なくない。

 

スポーツ新聞部の、残りの部員について、紹介。

 

2年の一宮桜子(いちみやさくらこ)さんは、以前も一度紹介したけど、あらためて。

桜子さんは、い・ち・お・う格闘技担当。

ミステリアスな雰囲気が、見た目や話しぶりから漂うひと。

 

あとは2年の男子がふたり。

 

岡崎竹通(おかざきたけみち)さんと、

瀬戸宏(せとこう)さん。

 

桜子さんに言わせれば、

  • 岡崎さんは「陸(おか)」
  • 瀬戸さんは「水(みず)」

の担当らしい。

 

中村部長が前に「『技の1号、力の2号』みたいなもんだ」とか言っていたが、他の部員の誰にも意味が不明瞭だった。

 

× × ×

 

部活終わり

 

帰りみちで、桜子さんいわく「陸(おか)」担当の岡崎竹通さんといっしょになった。

 

「岡崎さんの下の名前の読みって、『たけみち』でいいんですよね?」

「そうだよ。

 でも、おれ、大人にはよく、

『たけゆき』って読み間違われるんだ」

「えっ、どうしてですか?」

「なんでも、おなじ漢字(『竹通』)で、『たけゆき』と読ませる下の名前の、とても有名な元マラソン選手がいるらしい」

 

× × ×

 

帰ってから、「たけみち/たけゆき」問題について、お母さんに訊いてみた。

 

中山竹通(なかやまたけゆき)という、名マラソンランナーがいたらしい。

 

瀬古利彦って知ってる?」

「さすがに知ってるよ。解説でよく見る」

「瀬古のライバルだったのよ」

「へー」

 

「でもなんで岡崎くんは『たけみち』くんなのかしらね」

「どして?」

「だって、たぶん岡崎くんの親御さん、わたしと同じような世代でしょ。

 だったら、瀬古や中山の全盛期をリアルタイムで知ってるわけだし、それで中山の下の名前から『竹通』って名付けるとしたら、『たけゆき』って読ませない?」

「邪推はよくないよー、お母さん」

「あ〜ら、『邪推』なんて言葉、よく知ってたわねw」

「もう高校生なんだよっ!」

 

ちょっとだけムカッとした。

 

「あすか、あなたの書いた記事、きょうも見してくれる?」

 

ちょっとだけムカついたけど、お母さんに自分が書いた文章を読んでもらうのは、うれしいし、楽しい。

 

「(ひと通り目を通して)あすか、利比古くんは、誤字が5個以上あるとか、ダメ出ししてたみたいだけど」

「うん💢」

「たしかにきょうの記事にも、誤字は3つ見つかった」

「(´・ω・`)うん……」

 

「けれども、」

「けれども?」

「あすか、あなたの将来設計はあなたに任せるけど、」

「? どういうこと」

「どんな道を選んでも、

 あなたは文章を書き続けなさい。

 

 

 

 

わたしはすっごくビックリした。

 

「~しなさい」なんて言い回し、

お母さんが使ったのは、

記憶になかったから。