【愛の〇〇】迫真の演技とごはん粒

独りで『MINT JAMS』のサークル室で音楽を流していたら、

何も言わずルミナがやってきた。

 

変だ。

いつもはドカドカドカ…と足音鳴らして、『ボリュームが大きい!!』と殴り込んでくるルミナが、

沈黙を守りつつフラリと『MINT JAMS』のほうにやって来るなんて。

 

「…疲れてるのか?」

「わかる?」

 

おれは流している音楽のボリュームをさりげなく絞った。

 

「音楽、止めよっか」

「べつにいい」

「でも結構うるさいだろ。

 疲れてるのに。

 寝ても疲れがとれなくなっちゃうよ」

「ギン…あんたあたしをオバサンみたいに……」

「顔に元気がないぞ。」

「(困ったように)朝から何も食べてないの」

「それはよくないなあ。何か口に入れたほうがいいよ」

 

 

おれたちは、大学のキャンパスの近くにありがちなレストランカフェに入店した。

ふたりともタコライスセットを頼んだのだが、ルミナはありえないような速さでタコライスの容器を空にしてしまった。

 

そしてルミナはおもむろにバッグの中から絵本を取り出して凝視し始めた。

ルミナの眉間にシワが寄っているのを眺めながらおれはタコライスを食べた。

 

× × ×

「絵本ってーー、そんなしかめっつらして読むものなのか?」

「子どもの目線で楽しむ読みかたとは違うの」

「へー」

「『なぜこの絵本は長年にわたって子どもに愛されてきたのか?』という意識でーー」

「高いんだな、意識」

「あんたと違ってね」

「たしかにw」

 

ルミナはいかめしい目つきで2冊目の絵本を取り出した。

 

 

旅の絵本 (安野光雅の絵本)

旅の絵本 (安野光雅の絵本)

 

 

「いい?

 あたしたちのサークル、きのうもイベントに出て、読み聞かせをやってるのよ。

 この『旅の絵本』は文章のない絵本だからーーテクニックがいるの」

「読み手が?」

「読み手が。子どもに伝えるように、伝わるように。

(絵本のページをおれに見せながら)

『旅人はどこにいるでしょう?』

『ここで、この人たちはなにをしているのでしょう?』

『みんな、ほかにも何かが見つかりませんでしたか?』

 

ーーこういうふうに」

「迫真の演技だな」

「演技というよりも、子どもたちと絵本を共有できるように努力するのよ。演技とか、かえってわざとらしいのは子どもにウケが悪いわ」

「ところでーー」

「?」

「(自分のほっぺたを指さして)

 ごはん粒ついてるぞww