朝
1時限目があるらしく、
珍しく早く起きた兄と、
サシ向かいで朝ごはんを食べる羽目になった。
兄「そういやおまえ部活決めたんか」
わたし「決めたよ。当ててみてよ」
兄「クイズかよ」
わたし「ノーヒント」
兄「まさかサッカー部マネジになって藤村の後継者を狙うとか」
わたし「はい!? わけわかんないよ」
兄「でもノーヒントだとサッカー部ぐらいしか思いつかない」
わたし「なんで?」
兄「接点」
わたし「藤村さんやマオさんとの?」
兄「そう」
わたし「サッカー部にも、マオさんから誘われたんだけどね…」
兄「断ったん?」
わたし「(コクン)」
兄「いやな悪寒がする」
わたし「どんな悪寒?w」
フフフ……。
兄「すっ、すっ、スポーツ新聞部」
わたし「ファイナルアンサー?」
兄「お、おまえがそんなニヤケ顔するっつーことは…!」
わたし「正解」
兄「○| ̄|_だめだぁ…。
スポーツ新聞部かよ、よりによって…!
その部活の名前は、もう耳にしたくなかったあ……」
わたし「なんで?
お兄ちゃんのおかげで、スポーツ新聞部できたんじゃん」
そう。
スポーツ万能の兄が、
いろんな部活に「助っ人」として駆り出されたことで、
うちの高校の運動部の成績が軒並み向上し、
言わば、兄は『スポーツの功労者』として、
母校の歴史に残ってしまったのだ。
「卒業した先代の部長が戸部センパイのファンでね…、
部活というよりも『戸部センパイの活躍』をたくさん記事にすることで、わがスポーツ新聞部も、校内に浸透して行ったんだよ」
こう語ってくれたのは、
スポーツ新聞部新部長の中村創介(そうすけ)さん。
――何やってんの、お兄ちゃん。
「兄は有名人だったんですね…」
ある日の放課後、
誘い込まれるように、
スポーツ新聞部のドアを叩き、
中村さんの熱弁を聴いて、
わたしはなぜか、『そこ』に引き込まれていった。
上級生が卒業して、
スポーツ新聞部は現在4名、
部長の中村さんのほかは、
2年生が3人いて、
- 岡崎竹通(たけみち)さん
- 瀬戸宏(こう)さん
- 一宮桜子(いちみやさくらこ)さん
桜子さんは、女子部員が増えるからと、とりわけわたしの入部に熱心で、
「いま、球技担当がいないの。
わたし? わたしは格闘技の担当。
分担とかは、フレキシブルだけど」
「フレキ…シブル?」
「あ、だれがどのカテゴリーの担当かはアバウトってこと」
「はぁ……」
「ねぇ、戸部さん、あなた球技担当にならない?
あなたなら、なれるわ…」
桜子さんは、不可解なことをつぶやいたかと思えば、
わたしの手を取って、
サッカー部の練習場に連れていった。
「サッカー興味ある?」
「み、観るのは好きです…」
「海外?」
「へぇー! すごい!
どこのファン?」
「え!? どうして?」
「知り合いの人の影響で…そのひとは、グランパスよりも西のクラブにしかほとんど興味がないみたいで…今一番アツいクラブはV・ファーレン長崎だって言ってました」
「そのひと、西日本のひと?」
「いいえ、東京のひとです」
そしてわたしは、
桜子さんにデジカメを手渡され、
OG藤村さんのあとをついだ、マネージャー長・笹島(ささしま)マオさんの許諾を得て、
サッカー部の練習風景を写真におさめた。
平等に撮影したはずだったのに、
気づけば、
何枚も同じひとの背中が、
被写体になっていて、
ユニフォームの背中に、
『HARU』
ってアルファベットで書かれていて、
――絶対に兄には秘密にしてやる。
そう決意して、
わたしはスポーツ新聞部に入部したのだ。