【愛の◯◯】アツマくんの背中

コーヒー飲んで、ソファに寝転んでる。

いまいち本を読む気もしない。

スマホいじってる。

 

ーーわたしらしくない。 

 

あすかちゃん「おねーえさーん♪」

わたし「元気だねあすかちゃん。いいことだよ」

あすかちゃん「きょうは本読まないんですね」

わたし「気がすすまないのよ」

あすかちゃん「どうしてですか?」

わたし「ーーーーー」

 

あすかちゃん「(ため息をつき)もう、2年半もいっしょに暮らしてたら、なにがあったか、わかっちゃいますよ」

 

えっ。 

 

あすかちゃん「愚兄とギクシャクしてるんでしょ?」

 

わたし「どうしてわかるの……」

 

あすかちゃん「だって、朝ごはんのとき、おねえさん、愚兄の顔をいちども見てなかったもん」

 

わたし「どうしてわかるの……」

あすかちゃん「丸わかりです」

 

× × ×

あすかちゃん「お互いに謝りはしたけど、わだかまりがなくならない、ってことですか。」

わたし「それでなんかモヤモヤしてるんだと思う」

あすかちゃん「ん~~」

 

あすかちゃん「結論から言うと、わだかまりはすぐにはなくならない、と思っといたほうがいいです」

 

なんか辛口意見。 

 

わたし「理由は?」

あすかちゃん「んー、理屈じゃなくて、こういう場合、一瞬でパーッ!! と打ち解けるほうが、不自然じゃないですか?」

わたし「すぐに元通りになるほうが気持ち悪い、ってこと?」

あすかちゃん「まあそんなところですね」

 

あすかちゃん「つまりおねえさんは、さみしいんですね」

 

ギクッ 

 

あすかちゃん「お兄ちゃんの大学都心のド真ん中だし、流さんみたいに、夜遅くまで帰らないときだってある」

わたし「うん、よくわかってるあすかちゃん、わたしの心理。

 さみしいのは、ワガママ、というか、甘えごころの裏返し、みたいなものかな」

あすかちゃん「甘えごころ?」

 

わたし「わたしね……アツマくんの背中に、自分のおとうさんの背中を重ねちゃうの。

 ずーっと昔の記憶だけど、おとうさんの背中におんぶされるのが、わたし大好きで……。

 おとうさんの背中に身を委ねていると、すごく幸せな気分になってーーうまく言えないけど、おとうさんの背中の感触を覚えているというかーー恥ずかしいんだけど、おとうさんにおぶわれている夢を、今でも観るの。」

 

あすかちゃん「で、お兄ちゃんの背中にも、おんぶされたいんですか?」

わたし「…………ときどき、アツマくんの背中に、ギュッと抱きつきたいことがある。

 これ、アツマくんには秘密…」

あすかちゃん「わかってますよ」

 

わたし「あいまいだけど、甘えたいときもあるし、甘えたくない気持ちもある。

 そんなに強くもないし弱くもないんだよ、わたし。

 わたし自分のこと、半分好きで、半分きらい」

 

あすかちゃん「『ドラクエ』じゃないですけど、いい呪文があります」

わたし「呪文??」

 

あすかちゃん「時間が解決してくれますよ。」

 

わたし「(・_・;)時間、が…」

 

なぜだか、その『呪文』を聞いて、

あすかちゃんが、わたしに、

『前向きになりなさい』 と、

叱咤激励してくれているような気がした。