月曜日……。
センター試験の、自己採点。
わたしはーー、
教室から、脱走した。
行くあてもない。
とにかく人がいないところに行きたい。
だだっぴろい敷地を、「どうしてこんなに体力があるんだろう」というくらい走りに走って、新宿の超高層ビル群やスカイツリーが見渡せる、丘の頂上の展望台のようなところに来た。
でも、いま、ここがどこだか、まったくわからなかった。
この世の果てに来たような気分だった。
とりあえず、付けていた髪留めをむしり取って、地面に思いっきり叩きつけて、10回20回……と踏みつけまくって、土や砂でグチャグチャに汚して、
この世の果てだから、わたしひとりだと思って、ひたすら声が出てきた。
「バカッ、バカッ、バカッ先生バカッ、大学入試センターバカッ、大学バカッ、予備校バカッ、◯会バカッ、
……わたし、わたしバカバカバカッ、ろくでなし」
そしてーー、
「この世の果て」に、わたしは沈み込んだ。
【もし、眼の前の柵を、わたしが踏み越えたら?】
最悪の妄想!!!
八重子のクズ!!!
……眼に浮かんだのは、
父さんの顔。
すべての気力がなくなり、スマホでひたすら某匿名掲示板を閲覧し続けた。
しかし、スマホの電池残量が、刻一刻と減り続けていく。
『ガサッ』
えっ?
だれか追ってきたーー、
見つかった?
もし先生だったら、なぐられる、
いや、でもこの足音は――
「(゜o゜; 葉山。」
「ふーっ」と腰を下ろす葉山…。
「あんた、からだ、おかしくなっちゃうでしょ?!
走ったんじゃないの、ここまで?!?
あんた全力で走ったら、ぶっ倒れちゃうーー」
「歩いてきたのよ、時間かけて。
それにこの『見晴らしが丘』、そんなに遠くないし、校舎から」
「『見晴らしが丘』?」
「知らないのぉ? けっこう有名スポットなのよ、ここは」
「ムカつく。」
「(息を吐いて)でも少し疲れたなーっ」
(5分以上、10分未満の沈黙)
「八木って、お父さんとマンションで二人暮らしだったよね?」
「父子家庭よ。離婚。母が出ていった。で?」
「お父さんも気を遣うけど、八重子は八重子で大変なんだよね」
「(;´Д`)いきなり下の名前…」
「他意はない」
「(;´Д`)は!?」
「やぎーっ、ことばがとげとげしくなってるぞー。
……あらまあ。
こんなに髪留めをムチャクチャにして」
「ムシャクシャしてやった。反省してる」
葉山は、変形した髪留めを拾って、ハンカチで丁寧に拭き始めた。
「わたし自分で戻る。それで先生になぐられてくる」
「なぐられてくる、とか、物騒なこと、言わない。
そんなに重大な事態になってないって」
「なってる!」
「なってない」
葉山が葉山史上最高の笑顏でわたしを優しく見つめた。
ので。
わたしは思わず目をそらす。
「……」
「落ち着こう、八重子?」
また下の名前。
気を配ってくれてるんだ、わざと受験関連のトピックを避けて、葉山はべらべら話し続ける。
わたしはそれを聞き流して、電池残量ぎりぎりまでスマホを酷使して匿名掲示板まとめサイトの画面をスクロールし続ける。
でもスマホもわたしも限界になって、
「葉山ああああああああああーっ!!!!!
センターで、センターでひどい点取っちゃった!!!!!
「おーい、八重子、正気かー」
「。・゚・(ノД`)・゚・。」
「(^_^;)おーい、だいじょーぶだから、もどってこーい」