おれのセンター試験はーー、
1日目で、終わった……
文系科目しか受けなかったから
「戸部!」
「あいかわらず広橋涼みたいな声してんな」
「(ものすごく動揺して)と、戸部、広橋涼知ってたのぉ!?」
「『カレイドスター』ってアニメがありまして」
「『藤村杏』って名前とこの声のせいで、名前だけ百万遍と聞かされたアニメだ…」
「( ・∀・)それでですね、ぼくの年上の知り合いの彼女さんがねーー」
「(・_・;)もういいよ、話が際限なく長くなりそうだから」
「ーーで、戸部はどうだった?」
「試験?」
「試験」
「どうってことないよ。」
「言うと思った」
近くの公園
260円出して、おれと藤村、ふたり分の缶コーヒーを買った。
「(缶コーヒーを手に持ったとたん)おわっあっつあっつあっつい」
「(^_^;)そんなに熱かったのか?」
「(;´Д`)と、戸部……平気でよく缶コーヒー、素手で持てるね?」
「手を鍛えてるからかな」
「(;´Д`)あんま関係なくない?」
無言でおれと藤村は缶コーヒーを飲み続けた。
「とーべーっ。」
「なんだよ。
なんだか気色悪いぞ」
「ひっどーい!
( ´ー`)……そんな、わたしに気を使って。
ベンチの端っこまで遠ざからなくてもいいのに。
そのほうが不自然でしょ、距離感。」
「距離が近いほうが不自然に決まってるだろが」
「( ´ー`)せめて、そのベンチの真ん中に座んなさいよ。
そのほうが、お互い堂々としてて、『カップルか!?』って不審に思われなくて済むから」
「(・д・)チッ」
おれはベンチの真ん中に座った。
藤村とは、2年のときから、同じクラスだった。
『おねがい、苗字で読んで、ごめんけど』
ーー杏(アン)、つまり、下の名前で呼ばれることを、極端に嫌がる。
一緒のグループで、昼休みに弁当を食べるような仲の女友達に対しても、それは徹底していて、
そこが、藤村に対する最初の印象だった。
サッパリした女だ。
ちょっと攻撃的で、
ちょっと無神経なのが玉にキズな、
クラスメイトの女子だった。
だけど、ときには頼りになり、助けになってくれる。
そんな藤村が、弱さを見せたことーー。
高2の冬、ちょうど去年の今頃か、
野球部の4番打者とつきあい始めて、
それで、
3日で破局した。
涙こそ見せなかったが、その後しばらく、藤村の口数がモロに少なくなった。
ある日の放課後、うつむきつつ3階へと校舎の階段をのぼる藤村の後ろ姿を見た。
藤村の異変を感じ取ったおれは、『なにしてんだ、おまえ、』と、藤村に声をかけた。
すると、藤村は、何かに気がついたようにハッとした横顔になって、おれに振り向いて、早足で階段を1階まで降りていった。
それから藤村の口数は元通りになった。
「ねえ戸部……」
「なんじゃいな」
「なんじゃいな、じゃないって。
ありがとう」
「(゚Д゚; )ハァ?」
「ありがとう、2年間、ともだちでいてくれて」
「(゚Д゚; )……そりゃどうも」
「……戸部さぁ」
「まだなんかあるのかよ」
「なんだそれ」
「……そっか。
関西の大学、わたしも受けない。
(苦笑いするように)なんか、嫌な予感がする、
腐れ縁が、卒業したあとも続きそうで」
「(^_^;)よけいなおせわだ。」
「おれさぁ」
「(無言)」
「イギリス文学を勉強してみたいよ。」
「(無言)」
「愛が持ってた『ハムレット』と『西脇順三郎詩集』を、偶然手にしたのが動機っていう、ちゃらんぽらんだけどさ」
<バゴッ
こ、こいつ、いきなりカバンでおれの背中を叩きやがった!
「(その場に立ったまま)じゃあもっと勉強しろ、
ばぁか!!」
藤村の声はーー、
なぜか震えていた。