・日本食の基本ということで、ふたりともご飯を炊き、ふたりとも味噌汁を作る
・そして、ご飯と味噌汁に合うようなおかずを、洋食(と定義できそうなもの)から一品、中華料理(と定義できそうなもの)から一品作る
・合議による判定で勝敗を決める
わたし「先輩」
葉山先輩「なーに?」
わたし「先輩って、料理できたんですか」
葉山先輩「・・・・・・自分で自分の食べ物こしらえなきゃこの先生き残れない、そう昔っから思ってきた」
わたし「……いきなりなんですか、シリアスな」
葉山先輩「高校出たら家族のお金で生活したらダメだと思う」
わたし(グサッ)
わたし「先輩、先輩はそういう所まで自分を追い詰めてしまうから、精神(こころ)が苦しくなるんじゃないですか?
個人的には、『大学の学費は自分で払う』って『自活アピール』してる大学生は嫌いです」
葉山先輩「なんで? 親のすねかじるよりいいじゃん」
わたし「ほんとうに『親のすねをかじる』って良くないことなんですかね……」
葉山先輩「羽田さん、そういう事言うと、『甘ちゃん』だって言われるよ」
次第に声が大きくなっていくのを制御できないわたし「親に4年間面倒を見てもらうなら、10年かかったって20年かかったって恩返しすりゃいいじゃないですか!」
葉山先輩「それが親孝行……??
無理筋だよ。
40年かかっても親に借りた学費を全部返せないことだってあるよ、そのとき羽田さんいったい何歳? それに40年後って、もうあなたの両親は死んでるかもしれないんだよ?」
わたし「じゃあ……じゃあ……先輩は高校卒業したら親御さんとは手を切るんですね、家族のつながりはそこでキレるんですね」
葉山先輩「キレてんのは今のあんたじゃないの」
わたし「・・・・・・(かすれた声で)センパイ、あなたはこれまで親御さんがあなたに与えてくれた愛情を、『自活』とかいうタテマエで帳消しにするつもりですか。親御さんから離れていくってことは、恩を仇(あだ)で返すってことだとは思わないんですか?」
キレ始めた葉山先輩「なに支離滅裂なこと言ってんの!? わたしは自分で稼いで、それが親孝行だと思ってて、ーーで、でも、わたし高校卒業したら、それで大学行かないとしたら、どうやって稼いでいけばいいか……もし大学行かないんだったら、来年の春から社会人、とは名ばかりの事実上のニート……それでいて社会人としての責任がともなう……わたしどうすればいいの……」
わたしもムキになって、譲れない。
でも、葉山先輩の『あえぎ呼吸』がかなりヤバくなってきて。
会場が騒然としてきたのを肌で感じ取る。
「愛!! そこまでだ!!!」
わたしと葉山先輩『ビクッ』
「バカヤロ……おれは腹が減ったんだよ。
はやくおまえの作った料理を食わせろ」
声の主は、アツマくん。
ピリピリしてるのは、本気でわたしに怒ってるのが半分、のこりの半分は、たぶんほんとうにお腹が減っていて…
わたし「あ、アツマくん、もしかして、審査員やるの?」
アツマくん「ちげーよ」
わたし「そ、そうよね、公平性保てないし」
葉山先輩「もはやクイズの時点で公平性もクソもないけどねw」
わたし「たしかに」
アツマくん「いま…スタッフの子に、『特別ゲスト』で『解説』してくれって言われた」
わたし「OKしちゃったの?」
アツマくん「しちゃった。
じゃ、放送部の子が呼んでいるみたいだし、実況席行くわー。
あんまし進行を妨害すんなよ、ふたりとも( ー`дー´)」
『実況はわたくし八木(やぎ)が務めさせていただきます』
♫パチパチパチパチ♫
『えー、特別ゲストです。
羽田愛さんと一緒に暮らしている、戸部アツマくん、高校3年生です!!!』
♫あまりにも大きすぎるどよめき♫
『戸部くんは、毎日羽田さんの作った料理を食べられているそうで!』
♫やまないどよめき♫
『誤解を招く表現はやめてください。あくまで自分の家の一員として、彼女のほかにも妹と母さんとそれから居候があとひとり…。
たとえ血がつながっていない人間が家のなかにいたとしても、おれたち5人は家族ですから』
♫おおーーーーっ♫
うまい切り返しじゃん……
なんか目頭が熱くなってきた。
『こいつ毎回泣いてんな』って言われても気にしない。
きっと小泉さんの涙が伝染したんだからっ
『でも、さっきは羽田さんをかなりキツい口調で叱ってましたね?』
『愛に対する愛情表現ですよ、あれも』
♫うぉぉぉぉおおおおお~っ♫
『だってあのまま2人がケンカしてたら文化祭、終わっちゃうでしょ?
公共の場なんだから公共の』
『なかなか身内にも厳しいんですね、戸部くん!』
エプロンをつけた葉山先輩「戸部くんって真面目なのね、四字熟語だと『質実剛健』って言えばいいのかしら」
家からいつものエプロンを持参したわたし「…まっさかあ」
『きこえてるぞー、愛』
♫アハハハハハハハ!♫
受けてるーー、
ならいいんだけど。
まず、ご飯を炊かないことには始まらない。
分量はあたまに入ってる。
まずお米をとぐのだから、計量カップでお米を精確にはからなければならない。
だけど・・・・・・、
右手が震えて、
計量カップを持つ右手が震えて、
お米をうまく、すくえない・・・・・・!!
「アツマさん!?
愛が料理失敗してもいいんですか!?
愛の心の支えになるんじゃなかったの!?」
『お、おっと、ここで1年の青島さやかさんも参戦か』
『愛・・・・・・? (;´Д`)』
「愛はいま、お米も研げないような状態になってる。
ピンチなんだから!!」
さ、さやか。
助け舟を出してくれるのは、ひじょうにありがたい、ありがたいんだけどな。
「愛」
「あああああああああアツマくん!? 解説放棄!?」
「ばーか、せっかくのお料理対決が不成立になっちゃうだろ」
そういって計量カップでどんどんお米をボウルに入れていくアツマくん。
家でわたしのエプロン姿を毎日のように見慣れているせいか、手際がすっごくよい。
「これでいいんだよな?」
「うん、ほぼ完璧(・_・;)」
「(蛇口をひねって)ほら。水とお湯、間違えんなよ。お米をこぼさないようにがんばれ」
♫アツマくんに向けられる歓声(と嬌声)♫
「ほらよ、まだ使ってないハンカチだから、目元を拭けよ。
涙がお米研(と)いでるときにこぼれたら、台無しだろ。」
「わたし、ほんとうに泣き虫で、いやになる・・・」
「なーに言ってんだよ!
人間の素直な感情が出てるだけだろ?
おまえのこと泣き虫なんて言わないよ、
(あったかい声で)約束する。」
♫やんややんやの大歓声♫
葉山先輩がさみしそうだ。
実質1対2のタッグマッチ状態だもんなあ。
せめて葉山先輩にも、パートナーがいたらーー
さやかはどうかなあ?