【愛の◯◯】3人の女子大生に攻められまくった挙げ句――

 

「戸部くん、なんでそんな不機嫌なの?」

 

講義終了後、星崎姫が、さっそく、攻めてきやがった。

 

「べつに……機嫌は、いつもと変わらないから」

まるでツンデレのような態度をおれがとったら、

「その反応が変だよ」

「変って……なんだよ」

「ぜんぜん、戸部くんらしくないじゃない」

「じゃあ『おれらしい』ってなんだ、『おれらしい』って」

「ふだんの戸部くんにはもっと余裕があるよ。いまは、ほんとに余裕がない!! って感じ」

 

けっ。

 

立ち上がり、荷物をまとめて、教場を出ようとしたが、

「ちょっと待ちなさいってば」

星崎が、おれのジャケットをくいくい、と引っ張ってくるのだ。

おれより一段下の席から引き留めてくる星崎。

自然、高みから星崎を見下ろす格好になる。

「――ずいぶんと上から目線ね」

「仕方ないだろ、段差とか、身長差とか」

「ムカつくけど、立ち止まったのはホメてあげる」

「ムカつくかホメるかどっちかにしろ」

あと、いい加減ジャケットから手を離せ。

このワガママっ子が。

「子どもを見るみたいな眼で見ないでよ。わたし大学生なんですけど」

「そこ、アピールするとこか」

「お酒だって飲めるんだよ。早生まれのだれかさんと違って」

いつの間におれの誕生日知りやがった。

「…ねえ、戸部くんももっとオトナになったら?」

「なにが言いたいかハッキリさせてほしいんだが」

「させてるよ! にぶいんだから」

「ハァ?」

「不機嫌の理由、とっくにわかってるんだから」

上目づかいが、グサリとおれを刺してくる。

「ケンカしたんだよね? 羽田愛ちゃんと」

 

 

× × ×

 

ちくしょうちくしょうちくしょう。

……と、思わず3回「ちくしょう」を繰り返してしまうぐらい、星崎に不機嫌の理由を見透かされたことが、くやしかった。

 

そしてイライラしてきたから、食い物に当たらにゃ気が済まんという気分になって、キャンパスの近くのマクドナルドに急行し、ビッグマックその他をヤケ買いして、「MINT JAMS」のサークル部屋に持ち込んだ。

 

 

ムシャクシャとビッグマックを食べていると、

「――戸部くん、カロリーオーバー」

は!?

「冗談で言っただけだよ。もしかして、真に受けた? なんか、切羽詰まってる感じするし」

おれは、チキンマックナゲットに手をつける。

いったい何ピースのナゲットを買ったのかは……伏せておくとして、

「カロリーオーバーはねぇよ。八木と違って、鍛えてるんだからな」

「鍛えてる、って、運動?」

「そうに決まってんだろっ」

Lサイズコーラをガシュガシュと飲む。

このコーラがゼロカロリーだったかどうかは、定かではない。

「…食ったぶん、ちゃんと動いて、消費する。とくにストレスで食いすぎたときは」

「まさにいまだね」

あー、図星ですよー、八木さんよ。

「ストレスの原因……当ててみよっかな」

八木……。

おまえまで、星崎のような真似を。

「東京都多摩地方某所に、大学生の男の子と高校生の女の子が、ひとつ屋根の下で暮らしていました。

 女の子は男の子のことが好きで、男の子はその気持ちを受け入れており、やはり男の子のほうでも『好きである』という感情は否定できず、要するにふたりは恋人同士なのです。

 だけど、好きであるがゆえに――しょっちゅうふたりはケンカをします。

 今朝もそうでした。

 些細なことで、ぶつかり合いになって、

 女の子は『もう知らない!』と言って家を出て、

 男の子は反省しようと思っても、素直に反省しきれずに、モヤモヤとした気持ちで居間のソファに座っていました。

 やがて大学に行かなければならない時刻になり、モヤモヤを抱えたまま、男の子も家を出ていきました。

 ――で、そんな気分だと、大学の講義も、とうぜんアタマに入ってきません。

 講義が素通りです、うわの空です。

 さあ、こうなると、男の子の単位のゆくえが怪しくなってきました。

 彼は、落第せずに仲直りできるんでしょうか?

 ビッグマックを2つも3つも食べている場合なんでしょうか!?」

 

「おれは……ビッグマックを、2つしか食っていない」

「やーそこは重要じゃないでしょー」

「おまえの物語は、どこかで脱線している」

 

――だけど、八木が物語った内容は、だいたい当たっているから……寒気(さむけ)が走る。

 

図星なんでしょ? と言いたげに得意そうにしている八木から、わざと視線をずらそうとした。

 

そのとき。

サークル部屋のドアを叩く音が聞こえてきた。

 

× × ×

 

ルミナさんの入室によって、男女比が1:2に。

これはつらい。

女子ふたりから、挟み撃ちにされる危険性が……。

 

「ルミナさんルミナさん」

「ん? 八木さん、面白い話でもあるの」

「はい。戸部くんが痴話喧嘩です

 

こ、

こ、

コンニャロ、

だーーーーれが痴話喧嘩じゃっ。

 

へぇ~~~~~~~~~~

満面の笑みでルミナさんがおれを見てくる。

それでマックの袋がそんなに大きいんだあ

「か、関係ないですよ」

全力で否定。

マクドナルドで買い込んだのは事実だが、とにかく全力で否定。

「痴話喧嘩を紛らわすためにヤケ食いしてんのね」

「ルミナさんまで痴話喧嘩言わないでください…」

「あなたと愛ちゃん、この前あたしとギンがお邪魔したときも、ケンカしてたよねえ」

 

1月2日、ルミナさん・ギンさんを交(まじ)えて、邸(いえ)でテレビゲームに興じていた。

メガドライブやらメガCDやらセガサターンやらHiサターンやらドリームキャストやら、往年のセガハードをルミナさんが『発掘』してきたのは楽しかった。

それはそれでよかったのだが、

愛とパワプロをやり始めたのが、いけなかった。

 

「――戸部くんが手加減しないから、愛ちゃんが途中で試合放棄しちゃってさ」

パワプロで痴話喧嘩したの!? 戸部くん」

眼をまん丸くして、おれを見てくる八木。

「『痴話』は余計すぎる。それにちゃんと仲直りした」

「でもきょうのケンカは仲直りしてないよね」

間髪入れず、ズバッとおれの泣きどころをえぐってくる。

八木に防戦一方。

「いったいきょうはなにが原因のケンカだったの」

「あたしもそれ、知りたい」

八木とルミナさんが、ふたりしておれを詰めてくる。

これが、挟み撃ちかよ。

 

「ん、んーっと……」

歯切れ悪く、おれは白状し始める。

 

× × ×

 

「そんな些細なことでケンカできるのも才能だよ」とルミナさん。

「ケンカするほど愛し合う、ってことね」と八木…。

…おいおい、気色悪いこと言うなよ、八木。

しかし、

「今回のケンカの責任は戸部くんだよ」

へなちょこのおれの精神状態をぶった斬(ぎ)るようにして、八木が責任の所在を断定する。

「帰ったらすぐに羽田さんに謝るんだよ」

「……できるかな

「なんでそんなトーン低めなの、文字も小さくなってるじゃん」

るせっ八木

 

「あたしも、戸部くんのほうから『ごめんなさい』を言うべきだと思うな」

ルミナさんの追い打ち。

「しっかりしなよ。しょげてるのは戸部くんらしくないよ」

ルミナさんの激励は、もっとも。

「心配になってきたよ。あたしもうすぐ卒業するし――戸部くんのことを、このまま放っておいていいのか」

ルミナさんの懸念が、ちょっぴり過保護。

「戸部くんお姉さんいないんだしさ――お姉さん代わりになってあげたい、って気持ちがあるの」

「ルミナさんが……おれの……お姉さんに……」

「きょうこれから半日、あたしが戸部くんのお姉さんになってあげようか?」

「いきなり……なんで……そんなことを……」

「面倒見てあげるってこと。戸部くんズタボロだから」

「もっと……具体的に……お願いできますか」

「どーしてそんなに途切れ途切れの話しかたになるのっ」

「……すみません」

「とりあえず、近場のゲームセンターでも行こうか、お姉さんと」

「ゲーセンでなにするんです……」

チュウニズム

お姉さんセガの回し者ですかっ

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】KHKのあしたのために

 

アタシ、きょうで会長やめる

 

 

とつぜん、麻井会長が、そう言い出した。

後輩3人の視線が会長に集まる。

 

「――だって、次期会長は、なぎさに決まったんでしょ? 心置きなくやめられるよ」

それは、そう。

「引き継ぎ兼引退式やろうよ」

 

「引退式って……」

思わずぼくがつぶやくと、

「羽田は黙れ」

会長に一喝(いっかつ)される。

「なぎさ、ちょっとこっち来なさい」

 

会長が座っているところに歩み寄る板東さん。

立ち上がって、板東さんと向かい合う会長。

 

「でも、なんでまた、このタイミングで?」

板東さんが問う。

「引き際を間違えたくなかった。3学期アタマが、ちょうどいい区切りだと思った」

「じゃあ、なんでおとといの始業式の日に、言わなかったんですか」

それは……少しだけ……迷ってたから……

「会長」

「ん」

「会長も――迷うんですね」

「……なに、それ」

「わたしは、会長のそういうとこ、かわいいと思います」

 

まるでうなだれるように、下を向く会長。

小さな身体(からだ)が、ますます小さくなっていくように見える。

 

「下向かないでくださいよー。引き継ぎなんでしょ?」

「……『引退式』とか言ったアタシがバカだった」

「そんな……」

 

しばしの微妙な沈黙のあとで、

会長はうつむくのをやめ、板東さんの顔を見上げるようにして、

 

「なぎさは、ちゃんとやるに決まってるから。責任をもってKHKを運営できる、って。――その調子ならたぶん、KHKをもっと良くしていける」

 

板東さんを直視しながら、

 

「KHKを、なくさないでね――なぎさ」

 

板東さんのほうは、微笑みっぱなしで、

 

「――わかってます。わかってます、全部。

 だけど。

 愛の告白みたいに、言わなくてもいいのに」

 

ビクッと来たらしい会長は、

ア、ア、アタシ、女子に告白する趣味なんてないから

「――男の子がいいんですね?」

切り返す板東さん。

会長のほっぺたが軽く赤に染まる。

……知ってるくせに

捨てゼリフ。

でも、なにが、「知ってるくせに」なんだろう。

 

 

「もう引き継ぎ兼引退式は、打ち切り」

「……それで終わりなんですか? 会長」

ぼくが疑問をぶつけてみると、

「こんな茶番……視聴率が取れないじゃないの」

「いや視聴率ってなんですか、視聴率って」

「羽田はテレビオタクだから、ビデオリサーチって知ってるでしょ?」

「勝手にテレビオタクにしないでくださいよ…知ってますけど」

「ビデオリサーチの公式サイトにも記録されないよね、こんなやり取り」

「ただの高校生の部活引き継ぎを、どの局が好き好(この)んで全国中継すると思ってるんですかっ」

セレモニーで高視聴率が取れるのは……かつての有名人の結婚披露宴ぐらいのものだ。

「――羽田も、あんがい冗談が通じないね」

「通じてますから。ツッコミ役をしただけです」

 

すると板東さんが、

「漫才みたい。」

と面白そうに言ってくるのだ。

ぼくと、麻井会長の掛け合いが?

「アタシはコイツと漫才やってるつもりないんだけど」

「阿吽(あうん)の呼吸。」

「は!?」

夫婦(めおと)漫才みたいだって言ってるんです

 

のけぞる会長。

耳まで全部、赤くなって。

 

会長が卒業して、羽田くんとのさっきみたいな掛け合いが見られなくなるの、名残惜しかったりするんです

「……名残惜しいもなにも、必然でしょ」

くやしそう……

「なんにもくやしくなんかないよ、きっぱりアタシ卒業して、身を引くんだもん」

……心残りは?

「なんでそうやって問い詰めるわけ!? 怒るよ、なぎさ」

 

どんどん会長の周りの空気が険悪に。

引き継ぎが――台無しになってしまう。

 

「そのへんにしとこうよ、板東さん」

 

鶴の一声(ひとこえ)、だった。

 

「からかいすぎるのも、ほどほどにしないと」

黒柳さんが、穏やかに板東さんを諭(さと)す。

 

板東さんは不服そうに、

「黒柳くんに……怒られた」

 

「なぎさ。アタシは怒るのやめた」

「会長…」

「ここでこれ以上言い合っても、こじれるばっかりだよ」

「会長……わたしが言い過ぎましたっ」

「はいはい。

 ――黒柳(クロ)が、大人だったね。ちゃんとなぎさを制御できるんじゃん」

そして、黒柳さんのほうを向いて、

「安心だよ」

 

なんとも言えないムードだ。

引き継ぎ兼引退式……をしてたんだよね、ぼくたち。

 

× × ×

 

そのあと、『引退後の麻井会長をどう呼ぶか』ということについて話し合った。

麻井『名誉会長』か。

あるいは、単に、麻井『さん』とか麻井『センパイ』とか呼ぶのか。

 

「好きにしなさい」ということばを残して、麻井会長は【第2放送室】を出ていった。

 

黒柳さんも帰り、【第2放送室】にはいま、ぼくと板東さんだけだ。

 

 

「あのー、今後は板東『会長』って呼んだほうがいいのでしょうか?」

「それはヤダ」

「なら……これまでどおりで」

 

「ごめんね羽田くん、わたしがあまりにも大人げなくって」

「気にしてませんよ」

「――少しは気にしても、いいと思うんだけど」

「? どういうことですか」

「そういうところだよっ」

「……?」

 

「――羽田くん、1学期に、女子に告白されたんだってね」

「!? どうして、それを……」

「そりゃバレるよ。なんだかんだで、狭い世界なんだもん」

「……そうですか。」

「そうですかじゃないっ」

「す、すみません」

「――2学期は?」

「えっ」

「2学期は、告白されずじまいだった?」

「は……はい、そういうことは、ありませんでした、2学期は」

彼女はホッと胸をなで下ろして、

「よかったー」

「なにが……よかったんでしょうか」

「だって。

 立ちはだかる敵は――いないほうがいいから

 

??

 

「だれとだれのあいだに……敵が立ちはだかるんですか?」

ふふん♪

「『ふふん♪』じゃないですよ」

ふふふん♫

「……そ、そろそろぼくは帰ります」

「――『あしたは、どっちだ』」

「なんですかそれ!??!」

「『わたしにゃ、女子の血が騒ぐ』~」

「………節(ふし)をつけて歌うのはどうしてですか」

「羽田くん」

「まだ、なにか!?」

「せっかくウチの高校、ボクシング部あるんだしさ。こんど中継番組、作ってみない?」

「なぜ唐突にボクシング部かはわかりかねますが、中継するのは面白いかもしれませんね」

「じゃ、前向きに検討しよう」

「ですね」

元ネタ、知らないんだ

「――え??」

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】鈍感教師にカツ丼攻撃

 

「はい、ホームルーム、おわり~」

 

――放課後になったわけだが、

一目散に、教壇の伊吹先生に向かっていき、

 

「伊吹先生」

「どしたのー? 羽田さん」

「きょう、ちょっと部活遅れるので」

「ん、全然いいけど、なんで」

「……友だちのために、ひと肌脱ぐんです」

 

× × ×

 

友だちとは、青島さやかのことで、

ひと肌脱ぐためには、探さないといけない人物がいる。

 

アタリはつけていた。

 

職員室の前で待ち構えるのも悪くはなかった。

でも、かならず『彼』は放課後、ある部屋に向かうはずだから、わたしはその部屋の近くで待ち構えるのを選んだ。

 

 

荒木先生!

「羽田さんじゃないか、なんでこんなところに」

「わたしがここに来たら、おかしいですかー?」

 

のっけから挑発的になってしまった。

ま、こうでないと……。

 

「え……」

「まあたしかに放課後ここにはふつう来ませんよね」

「うん、そうだよね……」

「でもきょうは別なんです」

「別、って」

「――これから、音楽準備室で作業されるんですよね?」

「そうだけど……よく知ってたね」

「女子高生の情報網をなめないでください」

「ハハ……。かなわないな」

 

「かなわないな」じゃないでしょっ。

 

「せっかくなので、わたしも荒木先生手伝います」

「羽田さんが?」

不都合でも?

 

わざとらしく、不満げな表情を作ってみる。

そして距離を詰める。

 

わたしに迫られてテンパり気味の荒木先生。

もっとしっかりしてよ。

 

× × ×

 

「もっと生徒を頼ってくださいよ」

 

入室済み。

荒木先生とふたりきりの、密室――なわけだけど、それがどうしたのよって感じ。

緊張もなにもない。

 

「けどさ。羽田さんの授業は――受け持ってないし」

「それがどうかしたんですかー?」

 

答えに窮(きゅう)する荒木先生。

 

「わたしこういう部屋の片付けには自信あるんですよ。というか、自信ありまくり」

「そ、そうなんだ」

「もっと早くわたしを呼んでくれたらよかったのに」

 

本心で言ってるんではない。

これも、挑発。

 

「あー、でも、」

机の上のプリントやら教科書やらをガンガン片(かた)しながら、

「わたしの出る幕はなかったのかもしれませんねえ。

 本来。」

 

「本来」と、わざ~とらしく言い添えた。

わたしの意図に少しは気づいたかしら。

でも、まだ攻めたりない。

 

「とある女生徒がいました。

 彼女はとある若い男の先生を、とても慕っていました。

 彼は音楽の先生だったから、音楽の話題を共有できるのが彼女にはとても嬉しかった。

 けれども、彼女はいつまでも彼と同じ空間に居続けることはできません。

 卒業しなければならないからです。

 だから、彼女はお願いをしました。

 お願いとは、楽曲提供。

 なんのための楽曲提供なのか――もう、お分かりですよね?」

 

『6年劇』。

 

「――提供された楽曲を、彼女は想いを込めて弾きました。

 でも肝心なときに彼は不在で、直接自分の演奏を聴かせる機会は先延びになっていました。

 不在だった理由は――『出張』だったそうです。

 学校の先生なんですから、出張があるのは仕方ありません。

 身分の違いが、すれ違いを生む……これは大げさですけど、教え子と教師のあいだには、見えない壁が立ちはだかるのです。

 さて――、それでも、彼女は見えない壁を打ち破りたくて、彼のいるところに押しかけました。

 彼のいるところ、とは、いったい如何(いか)なる場所か?

 どこなんでしょーねー。

 それと、彼女が押しかけたのは、いつなのか?

 季節が秋から冬に移り変わるころ……とだけ、わたしは言っておきますけど」

 

これだけ言えば、荒木先生も、いろいろと悟(さと)ることだろう。

だれのことで――わたしが先生に憤(いきどお)りを感じているのか。

 

「羽田さん――」

「なんでしょうか?」

「――きみは、

 ストーリーテラーだね

 

「……はい??」

 

「どうしてそんなに即興でストーリーを物語れるんだい」

 

え……。

もしかして、

この先生は、

なにも……わかってない。

 

 

「先生……。わたしが、『たとえ話』をしてるって、わかってますよね??」

「んー。

 なんとなく、事実に基づいてるんだろうなー、とは、思ったけど」

 

 

鈍感。

しかも、

当事者意識、なし。

 

 

……だんだん、

腸(はらわた)が煮えくり返ってきた。

 

「…アツマくんだったら、ひっぱたいてるのに」

「え、なにか言った? 羽田さん」

言いましたっ

 

ガタン、と椅子を引き、着席する。

「先生、訊きたいことが山ほどあるので、そこに座ってください」

そこ、とは、言うまでもなく、わたしの向かい側。

 

「――取り調べか、なにか?」

 

そこらへんは鈍感じゃないんだ。

ムカつく。

 

「まさに取り調べです」

「ハハハ……羽田さん警察だな」

 

バカ。

 

「…あいにくカツ丼はありませんが」

「あったら、本格的だよねぇ」

はやく座ってください。

「あ、ごめんよ」

「ところで先生は……カツ丼の作りかたは知ってますか?」

「知らないが」

「……こんど、家庭科室で、お手本を見せてあげましょうか」

「作ってくれるの?」

「わたしが何回『お料理同好会』に勧誘されたと思ってるんですか…」

 

イライラして、

右の人差し指で、小刻みに机を叩きまくる。

 

「…先生、『取り調べ』は一度ではないので」

「きびしいね」

「…第2ラウンドは、家庭科室。」

「カツ丼?」

「ええそうですよ。カツ丼作ってあげますから。

 わたしがカツ丼作る代わりに、先生の黙秘権はなしです」

「カツ丼の代償として……黙秘権が奪われるのか」

「あたりまえじゃないですか。」

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】名前で呼びたての、ホヤホヤ

 

早いもので、始業式。

 

半日で終わり、スポーツ新聞部の活動教室へ。

 

 

活動教室に先に来ていたのは、桜子部長と加賀くん。

 

「桜子さん、あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとう、あすかちゃん」

彼女は、ペットボトルのお茶を飲みながら、

「きょうはなにをしようかしらね」

「あの…受験勉強…遠慮なく、してもいいんですよ」

「気づかいはうれしいけど、その気づかいだけもらっておく」

「でも…」

「お弁当、食べたら?」

 

わたしはおとなしく自分の席に座った。

そしてお弁当と水筒を机の上に置いた。

ちなみにお弁当は自作(じさく)である。

受験生のおねーさんの負担を減らしたいし、お弁当ぐらい自分で作れる。

 

加賀くんは……卵焼きすら、作れないんじゃないか、という偏見。

現在の加賀くんは、『将棋世界』を一心不乱に読みながら、盤上に駒を並べている。

そんな加賀くんを、お弁当を食べながら観察する。

 

食べ終える寸前に、

「なんだよ、そんなにおれを見るのが面白いのかよ」

加賀くんが気づいた。

動じず、わたしは水筒のお茶をゆっくりと飲んで、

「面白いかも」

「はあ? ふざけんな」

「攻撃的なことばはあまり感心しないなあ」

「……どうせおれは攻撃的だよ」

「自覚……、出たんだ」

笑うなぁっ

「ゴメン……ところで、加賀くんお昼は?」

「もう食った」

「なに食べたの」

「購買で売ってた菓子パン」

「菓子パンの、なに」

「っるせえ」

「当ててあげようか」

「は?」

「――メロンパン」

 

「く……口から出任せ言いやがって」

 

あ~っ。

いきなり正解しちゃったんだ、わたし。

 

ところで、メロンパンって、甘いよね。

 

× × ×

 

「瀬戸さん、来ませんね」

わたしが言うと、

「だれかといっしょにお昼を食べてるんだと思うわ」

桜子さんの爆弾発言が、いきなり炸裂。

「だ、だれかって、まさか」

「――時間の問題だったのよ」

そう決めゼリフみたいに言う桜子さんの横顔は、笑顔。

 

 

午後1時近くになっても瀬戸さんはやって来ない。

部活に遅れてくるなんて、瀬戸さんめったになかったのに。

 

そして、まだやって来ない部員が、もうひとり――。

ふたりともどうしたのかな、と思い始めた矢先。

 

ガラーッ、と勢いよく扉を開けて、

岡崎さんが入室してきた。

 

「悪い、遅くなった」

そう言いつつ、気安(きやす)そうに桜子さんに近づいて、

「ほれ、箱根の記事」

彼女の机にポーン、と記事を置いた。

 

箱根とは、もちろん箱根駅伝のことである。

きのうの中継はわたしも観ていた。

土壇場で、逆転のドラマがあった。きっと岡崎さんの記事も、その逆転劇を中心に書かれているんだろう。

岡崎さんが陸上競技担当なのを今の今まで忘却していたのは秘密だ。

 

「――ずいぶん書いたのね」

「観ながら書いてたし。正月で、書く時間はたっぷりあったし」

「受験勉強の時間を犠牲にしてまで――」

「――これが最後の大きな仕事だと思ったからさ、桜子」

「――あなたらしいと思うわ、竹通(たけみち)くん

 

 

え、

えっ、

ええっ、

 

なにごと――。

 

「桜子さん、いま、なんて――」

思わずわたしは言ってしまった。

桜子さんは平静を保ち、

「わたしは竹通くんの名前を呼んだだけよ」

「だ、だ、だ、

 だからっ、そこですよ、そこ」

「『そこ』ってどこ」

「年が明けたら、いきなり岡崎さんを下の名前で呼び始めて――」

「そうね」

彼女は明るく微笑んだかと思うと、

「たしかに、呼びたての、ホヤホヤね」

岡崎さんに目配せしながら、

「そうよね? ――竹通くん」

『竹通くん』の顔は、わたしからは見えない。

「出来たての、ホヤホヤの、わたしたちの関係――」

「ちょちょちょっと待ってください。心臓に悪いんですけど」

「なんで? あすかちゃん」

「いや……その」

軽く深呼吸してから、

「おふたりは……どんな関係なんですか?」

 

語弊があった。

正確に言えば、

「どんな関係『になった』んですか?」だ。

 

桜子さんはなぜかなにも言ってくれない。

岡崎さんに至っては窓際をずっと眺め続けてる。

 

――加賀くんが、ピシャリ、と駒を打つ音が聞こえた。

そして、

つきあってるんだろ?

と、

無表情に盤上に視線を落としながら、決定的なひとことを言った、言ってしまった。

 

「――加賀も、たまには、やるんだな」

窓際を目一杯(めいっぱい)見ながら、岡崎さんが言う。

「王手飛車取りをくらわされた気分だ」

「たとえが上手ね……竹通くん」

「だろ?」

窓を開け放つ岡崎さん。

換気するのはいいけど、

寒気(かんき)を入れてくるのは、ほどほどにしてください。

 

……というか。

 

え~~~~~っ。

 

岡崎さんと桜子さんが……彼氏彼女に。

いつの間に!?

 

桜子さん、なんにもわたしに伝えてくれなかった。

……仕方ないか、それも。

『竹通くんとつきあいはじめました』って伝えるだけでも、勇気要るもんね。

勇気150%ぐらいじゃないと、打ち明けられないよ。

 

岡崎さんは岡崎さんで、

片想いの一方通行を、どうやって……。

 

年末に、

なにかがあった、

きっとそう。

クリスマスとか、

クリスマスとか。

 

 

 

にしても、めでたい。

年の初めは、こうでなくっちゃ。

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】恋愛経験豊富な住み込みメイドの『時間感覚』

 

みなさま、あけましておめでとうございます。

アカ子さんの邸(いえ)の住み込みメイドの蜜柑です。

今年もよろしくお願いします。

 

 

さて。

まだ三ヶ日なわけですが、「ハルくんにお正月なんてないわよ!」と、受験生のハルくんを邸(いえ)に呼んで、さっそくアカ子さんは勉強を教え始めています。

いわば、『逆家庭教師』ですよね? これ。

だって、アカ子さんがハルくんの家に行くんではなくて、ハルくんに来てもらうんですから。

 

「――どう思いますか? お母さんは」

「え、みーちゃんなに、いきなり」

「お嬢さまの『逆家庭教師』のことなんですが」

「『逆家庭教師』? ……あ~、あーちゃんとハルくんのことね」

「一方的にハルくんにこちらに来てもらうだけでいいんでしょうか?」

「いいんじゃない? ハルくんに不都合がなければ」

「それでも、一度はお嬢さまがハルくんのお宅にうかがったほうが……あちらのご家族へのごあいさつも兼ねて」

「あーちゃん、まだハルくんのお家(うち)に行ったことないんだっけ」

「ないです」

「そう。……ま、あーちゃんが自分で決めることでしょ。おうかがいするか、しないかは」

「でも、いずれは……」

「そうねぇ。ごあいさつしないとねぇ。だけどそれもあーちゃん自身の問題であって、外野がとやかく言うことでもないわ」

「…『外野』って」

「意外だわ、みーちゃんがそんなにあーちゃんの恋愛模様を気にしてるなんて」

「お嬢さまの初恋なんですもの」

「恋愛経験豊富なみーちゃんとは対照的よねぇ」

「微妙に話がそれてませんか…?」

 

ふたりで、箱根駅伝のテレビ中継を観ながら、こうやって話しているわけです。

アカ子さんとハルくんも、下(お)りてきていっしょに観ればいいのに。

4人で観たほうが楽しいじゃないですか。

あ、でも、昼過ぎまで中継あるのか、これ。

それはいけませんね。

ハルくんが勉強を教わりに来たんだか、箱根駅伝を観に来たんだかわからなくなっちゃう。

アカ子さんが進学する大学も出てないし。

学生連合の一員としてなら出てるんですけど、その子はもう走っちゃいました。

早稲田は毎年のこと出てるんですけどね。

 

「――7区も、そろそろ終わりですか」

「10区までだよね?」

「はい」

 

お母さんは、大きな大きな液晶テレビの画面をしげしげと眺めて、

「……寒くないのかしら」

「……寒くなかったら、むしろヘンですよ」

「一生懸命走ってたら、あったまるのかもよ?」

「それはランナーにしかわからないことでは」

「あ、タスキ渡った」

平塚中継所。

「がんばれ~」

テレビ画面に向かって声援を送るお母さん。

「ご贔屓(ひいき)のチームとか、あるんですか」

「全員を応援してるのよ、わたしは」

「はぁ……。」

「がんばれ~」

 

× × ×

 

ティーポットの紅茶が切れたので、

「わたしお湯を沸かしに行ってきます」

とお母さんに言ったときでした。

 

ダダダダダッ、と、ものすごい勢いで階段を駆け下りてくる音。

 

ハルくんのことなんか知らないんだから!!

 

お嬢さまの叫び声が響き渡ってきます。

箱根駅伝のランナーがビビってしまうくらいの迫力。

 

「ケンカがスタートしたみたいねぇ」

面白がるようにお母さんは言います。

「……見てきましょうか? わたしが」

「あっちから駆け込んでくるわよ」

 

数秒後、ほんとうにお嬢さまが駆け込んできたではありませんか。

「ほらねー、言った通り」

駆け込み乗車に間一髪で成功したひとみたいになっています。

しばらく喘(あえ)ぎ続けたかと思うと、無言で近くのソファに腰を下ろした彼女。

ガンッ、と、いきなりテーブルを右拳(みぎこぶし)で叩くのです。

「だめよーあーちゃんー、ケガしちゃうわよー」

軽~くお母さんにたしなめられるのですが、

このテーブルがハルくんだったらよかったのに

と穏やかでないことを言い出す彼女。

「そんなに怒ってるの?」

聞いてよっお母さん

「聞くけど。」

――年が明けたら、漢字も英単語も全部全部忘れてるのよ、彼。『復習して』ってちゃんと言ったのに、してないのよ、復習。『やる気あるわけ!?』って怒ったら、苦笑いでごまかすし。『危機感ないの!?』ってもっと怒ったら、なぜかまた苦笑いではぐらかそうとするし!!

「ふぅん」

箱根駅伝のランナーは、あんなに必死で走ってるのに。ハルくんは1ミリも本気じゃない……」

 

「強引に箱根駅伝を比較対象にしなくても、アカ子さん」

受験は箱根駅伝

「ええぇ……」

「あーちゃんも上手いこと言うわね」

「真理でしょう。お母さん」

「真理かどうかはべつの話として――」

ゆったりと、娘の顔を見て、

「――逆ギレしないだけ、ハルくんは優しいじゃないの」

お母さんがハルくんの肩を持つのが不満そうに、

「逆ギレの余地なんてないから」

「まーまー、カリカリしないであーちゃん」

「彼が『ごめんなさい』を言いに来るまで、ここに居させてもらうわ」

「じゃあ、カリントウでも食べる? カリカリしてるだけに」

お母さんダジャレはやめて

「真剣ね」

 

「アカ子さん――」

「なぁに!? 蜜柑もハルくんの肩持つとか!?」

「いえいえ。――この場合は『ケンカ両成敗』が適用されると思われるのですが」

「わたしのほうに非なんかない」

「ほんとうにそうでしょうか?」

「やっぱり肩持つんじゃないの」

「――自分の胸に手をあてて、じっくり考え直してみたらどうですか?」

笑いながら言わないで!! いやらしい

「――どこが、いやらしいんでしょうか」

「それこそ、蜜柑が蜜柑の胸に……」

「――ハルくんは、あと5分したら、こっちに謝りにやって来ると思います」

「……5分の根拠は」

恋愛経験豊富な女のカンです

「……ばかっ」

「バカにできないものですよ。

 身体(からだ)で覚えるんです、相手がどれだけ反省してるか、あとどれくらいしたら謝りにやって来るか、そのとき自分はどんな対応をするべきなのか――」

「……実体験入ってる?」

「ええ。入ってます」

「蜜柑は……こんなとき、ズルいんだから」

「わたしがズルい女でよかったですねぇ!」

「……」

「――ほら。

 だれかの足音が、聞こえてきたじゃありませんか」

 

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】しりとりオルタナティブ

 

参考書とにらめっこしていたら、

ドタドタ…と階段を駆け上がってくる音。

 

そしてドバーン、とドアが開き、

ルミナが部屋に入ってくるのだ。

 

× × ×

 

「ギンが……勉強してる!?」

おれを見て驚愕するルミナ。

「1月2日なのに」

「日付は関係ない」

「それにしたってギンが勉強なんて予想外すぎる」

「……そりゃ、お勉強ぐらいするさ」

参考書にマーカーを引きながら、

「遅れは、取り戻さなくちゃな」

 

立ち尽くしてるルミナ。

 

ほんとに、この幼なじみは……。

 

苦笑して、

「とりあえず、腰下ろせよ」

と言うと、床に体育座りになった。

「そこらへんは暖房があんまり当たらなくて、寒いぞ」

「……」

「おまえ寒いの苦手だったろ」

「……もっと、あんたのほうに近づけ、ってこと?」

「まあ、そうともいう」

「ダメ、勉強してるあんたが畏(おそ)れ多くて近づけない」

 

畏(おそ)れ多いってなんだよ。

 

「ルミナが来たから、お勉強は一時停止だ」

「エッ。遠慮せずに続ければいいじゃん」

「――勉強するおれを眺めてても、つまんないだろ?」

「あたしはあたしで勝手に遊んでるよ」

「いや、なにで遊ぶってんだ」

「ギン、Switch持ってたでしょ?」

「持ってるが」

スマブラやってる」

「…ひとりでスマブラやるのかよ」

「わるいー」

「…なんのために、64は最初っからコントローラーを4つつなげるようになっていたと思ってるのか」

「はいぃ!?」

なに突拍子もないこと言ってくるの……という表情のルミナ。

「ごめん、伝わらない言いかたしてしまった。

 要するに…スマブラっていったらやっぱ4人対戦だろ、って」

「いまは4人どころじゃないでしょ?」

「……そうかもしれないが」

「認識、古くない?」

「ウッ」

「なにその微妙なリアクション。……ブログの中の人の焦り顔が眼に浮かんでくるよ」

「余計なことを言ったらいけないルミナ。ゲームキューブで時代が止まってるひとだっているんだ」

「ことし西暦何年よ」

「2021年だろ」

「……20年間冬眠?」

「……発売当時のゲームキューブを抱えて冬眠した可能性もあるな」

 

「まわりくどくてわかりにくい話はやめようよ、ギン」

「――どこから脱線したんだっけ?」

「もう忘れちゃった」

「おいおい」

スマブラはやめた」

「おれも勉強の手が完全にストップしたよ」

「じゃあ、遊ぼうよ」

「『遠慮しないで勉強続けて』って言ってた気がするんだが…」

「忘れちゃった」

 

口から出任せが基本なのか? コイツは。

…まあいいや。

 

床座りになって、ルミナと向かい合いになる。

 

「なにして遊ぶか」

桃鉄

「Switchにこだわる気か」

「Switchじゃなくたって持ってたでしょ、桃鉄

「かなり昔のだぞ」

「昔のだっていいよ。

 ほら、お正月には桃鉄をやるっていう『風習』が――」

「どこの風習だ」

「――お正月に桃鉄やって、ケンカになるまでが『風習』よ」

「そんな風習知らん」

「薄情(はくじょう)」

「薄情で悪かったな。

 だいいち、おまえと桃鉄で対戦してケンカになった記憶がない」

 

たしかに……という顔になったかと思うと、

 

「やっぱやめた、桃鉄

 

まーた口から出任せかよ。

 

「この気分屋」

「そうだね、あたし気分屋」

「きょうは特にひどい」

「――スマブラもやんない、桃鉄もやんないとなると、いよいよやるゲームが思いつかなくなってきた」

「思いつかなくなるのが早すぎる」

「ほかにどんなゲームある?」

「たとえばだな……」

 

× × ×

 

「……どれも、しっくりこない」

「わがままだなあ」

「いまさら~?」

「どうするんだ。戸部くんの邸(いえ)とは違って、ハードやソフトが無限にあるわけじゃないんだぞ――」

あ!!

「とつぜんなんだっ」

「あたし、ひらめいた!!」

「おいまさか」

「そのまさか。

 これから、戸部くん邸(ち)に押しかけてみようよ!

「――ハードもソフトも無限にあるから、か」

「ゲームだけじゃないよ。彼の邸(いえ)だったら、なにかしら面白いものが見つかるでしょ」

「お宝探検隊かよ」

「さっそく愛ちゃんに電話してみよ~っと」

 

× × ×

 

できれば、あしたまでは、こもりっきりでいたかったのだが。

寒い空気に身をさらす羽目になってしまった。

 

「――今年も、おまえに振り回されるんだな」

「どうかなあ? 4月からは、わかんないよ」

「――労働か。」

「仕事で忙しくて、あんたを振り回してる場合じゃなくなるかも」

「おれも早く労働者になりたいよ」

「どこまで本気で言ってんの? それ」

「どこまでも。」

「……あっそ。」

「『卒業するほうが先だ』ってツッコまれるかと思った」

「そうよ、そこも大事。というか、そこのほうが大事」

「学業にも振り回されそうな、2021年だなあ」

「学業といえば――さっきは、大学の勉強をしてたわけ?」

「違う」

「やっぱり違ったのね。大学の勉強じゃないとすると――資格試験、か」

「大当たり」

「……投げちゃダメだよ、その勉強」

「『なんの資格?』って訊かないのか。意外だ」

「あたしは訊かないよ」

「なぜ?」

「いまは訊く気分じゃなかったから」

「――納得」

 

 

気分屋が、

白い息を弾(はず)ませながら、

おれの斜め前を歩いている。

 

「ギン、駅に着くまで、『しりとり』しない?」

「先攻はどっちだ?」

「あたし。

『バニラアイス』」

 

もう勝負は始まってるってか。

 

「『寿司』」

「『シュークリーム』」

「…『無添くら寿司』」

「…ギンのばか」

「ルール違反を犯したつもりはない」

「…『白玉あんみつ』!」

「……『つきあいがこうも長いと不都合もいっぱい出てくるけど』」

「……今度こそルール違反だよ」

「続けるんだ。『ど』だぞ」

「………『どうしようもない幼なじみでごめんね』」

「『猫のように可愛い幼なじみだから気にしてない』」

「『いったいなにがしたくてあんたはこんなやり取りを続けようとしてるの』」

「『ノーコメントだが自分の落とし前だけはつけようと思う』」

「『うっかり本音を言わないでよね』」

「『根はマジメだから本音だって言うさ』」

「『寒気がするぐらい恥ずかしいのは無しだよ』」

「『よく気をつけてみるとしますか』」

「『かなり駅が近くなったからもったいぶらずに言うこと言って』」

「『天才的な決めゼリフを考えてきた』」

「『楽しみだから早く言ってみなさい』」

「『言うけどいいかな』」

「――『何度でも』」

「『もっとがんばっておまえに追いつくよ』」

「……『世の中にありふれてるセリフじゃないの』」

「『ノートに何回も書き直して考えたんだけどな』」

「『なんで何回も書き直した結果がそのセリフなの』」

「『能力の結果だ』」

「『だからギンは甘いのよ』」

「……『洋菓子みたいに甘くたっていい』」

「『いけ好かない幼なじみなんだから』」

「――『ラクな仕事なんてないと思うけど』」

「『どうしてそこで話題変えるの?』」

「『ノーコメントでお願いしたい』」

「『いったいどういう風の吹き回し?』」

「『就職おめでとう』」

「……、

うっかりギンの罠にかかっちゃった』」

「『楽しい事ばかりじゃないと思うが応援するのが幼なじみの義務だからな』」

「『なら早くあたしとおんなじステージに立ってほしい』」

「…『言われなくともわかってる』」

「……『る』……『る』……、

ルール違反みたいなことばっかり言うんだも』」

 

「――、

 わざとルール違反したんだな」

 

「もう駅でしょ。際限、なくなるから」

 

「ま、いいや。

 寒がりなルミナも、だいぶあったまっただろうから」

 

「こころもからだも、ホッカホカよ。だれかさんのせいで」

 

「――ルール違反なのは、お互いさまか」

 

「ルール違反とルール違反で、打ち消しなんじゃないの?」

 

「幼なじみの特権ゼリフだな」

 

「……うん。」

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】あけまして欲張りあすかさん

 

新年早々、あすかさんが、なんだかやけに嬉しそうである。

 

「あすかさん、幸せそうですね」

「利比古くん」

「なにか、もらったんですか?」

「べつに」

 

怪しい。

 

「そんなに、はぐらかそうとしなくたっても」

「はぐらかしてなんかないし」

「――当てましょうか。なにをもらったか」

「もらった前提なわけ」

 

ぼくは首を縦に振る。

 

「あ……当ててごらんよ」

「身構えなくてもいいでしょう」

「身構えてないから!」

「結局のところ――」

 

これに決まってる。

 

「――お年玉ですよね」

 

顔を赤らめるあすかさん。

 

「なんで恥ずかしがるんですか」

「恥ずかしいよっ!! あと少しで高3なのに、お年玉もらって嬉しがってるところを見られたら」

 

そういうものなのかなあ。

 

「――でも、目撃者が利比古くんで、まだ良かった」

「目撃者、って」

「お兄ちゃんに見られてたら恥ずかしすぎて引きこもりになるところだった」

「ひ、引きこもっちゃダメですよ」

「うん、わかってるんだけどね。

 ところで――」

「はい、なんでしょう」

「利比古くんだって、お年玉もらってるでしょ」

「もらっちゃいましたねー」

「…あなたにしたって、嬉しそうだよね。顔に出てる」

「出てますか…?」

「出てる、出てるったら出てる」

 

新年早々ハイテンションだなあ……と思いつつもぼくは、

 

「明日美子さんに、まずもらいました」

「『まず』!? お母さんのほかにも、だれかにもらってるの」

「あ、はい。――アツマさんに」

「お兄ちゃんに――!?」

 

ほんとは「あすかには内緒だぞ」って言われてたんだけどな。

すみません、アツマさん。

言っちゃいました。

 

ずるい

「拳(こぶし)を握りしめなくたって、あすかさん」

利比古くんもお兄ちゃんも両方ずるいよ

「あ、あすかさんも、アツマさんにお願いすればもらえるんでは」

そんなことするわけないじゃん

 

たしかに――性格的に。

 

「……わたしバイトしようかな」

「なぜに」

「お兄ちゃんに頼りたくないからに決まってるでしょ」

「ど、どういう理屈ですか」

「お兄ちゃんから、お小遣いとかお年玉とかもらうのは、ちょっと違うと思うの」

「素直にもらっておけばいいのでは?」

「なんかそれ――くやしいじゃん」

「くやしい…」

「そ。くやしいから」

 

『高校生でバイトは、大変だと思うよ』

 

うわあああああ流さん

 

――流さんが、ひょっこりと現れた。

 

それにしてもあすかさん……ビックリし過ぎなのでは。

 

喘(あえ)ぎながら彼女は、

「な、な、ながるさん、いまの会話、も、も、もしかして」

「もしかしなくても聞こえてたよ、あすかちゃん」

恥ずかしい引きこもりたい

「引きこもっちゃあバイトどころか学校にも行けないね」

「ぐ……正論」

「バイトは大学からでいいと思うよ」

 

「あすかさん、ぼくもそう思います」

「お兄ちゃんのスネかじりになっちゃう……」

「オーバーに考えすぎですから」

 

アツマさん絡みのことになると、オーバーになっちゃうのかな。

自分のお兄さんだから?

 

大学生になったら絶対お兄ちゃんより稼いでみせる

「いや……大学生の本業は、勉強じゃないですか」

「利比古くんがいいこと言った」

 

苦し紛れのあすかさんは、

お、お金だけじゃないから、単位もお兄ちゃんより稼ぐんだから

「まあまあ、落ち着いて」

なだめるように流さんが言った。

「進路を意識するのは大事だけど、高2の1月なんだし、もっとゆっくり構えたほうがいいと思うよ」

「……また流さんに正論言われちゃった」

「先走りすぎるのも、ね。

 ところで、なんだけど……」

「?? どーしたんですか、流さん」

そう言ってキョトンとするあすかさんだったが、

ぼくには流さんの意図が読めていた。

「ふたりに渡したいものがあって、さ」

「渡したい――まさか」

「そのまさか、なんだよ、あすかちゃん。利比古くんは勘付いてるみたいだけどね」

「お年玉――」

 

色違いの、ポチ袋がふたつ。

 

「自分で言うのもなんだけど、アツマよりは、オトナだからね」

「ありがとうございます流さん、大事に使おうと思います」

即座にぼくが受け取るいっぽう、

あすかさんは不意打ちを食らったみたいに、

「ほんとうに――もらってもいいんですか」

流さんは頭をポリポリかきながら、

「あすかちゃんには……本来、もっと前からお年玉、あげるべきだったんだけどな。ここまで持ち越しちゃった」

「たしかに――流さんがお年玉くれるの、たぶん初めて」

「長い付き合いなのに、申し訳ないね」

「謝らなくてもいいです」

と言って、彼女は素直にポチ袋を受け取る。

「ありがとうございます……流さんには、ギター買うときもお世話になったし、いつか、恩返ししないと……」

「恩返し、か」

「…『その必要はない』なんて、言っちゃイヤですよ、わたし」

「そっか。

 じゃあ、いまのところは…あすかちゃんの気持ちだけ、受け取っておくとするか」

 

 

× × ×

 

風のように、流さんは去っていった。

 

「良かったですね、お年玉もらえて。ぼく、なにに使おうかなぁ、貯金かなぁ」

「――『気持ちだけ受け取っておく』ってことばは、便利」

「不穏な。……流さんに不満でもあるんですか」

「ないと言ったら、ウソになる」

「お年玉が増えたんだから、もっと喜べばいいのに」

そだねー

 あとで……言うよ、流さんに。

『気持ちだけ受け取っておく』ということば、しかと受け取りましたから

 ってね」

「また、挑戦的な……」

「挑戦的なだけじゃないよ。

 感謝の気持ちも込めて言うんだ」

そして、ポチ袋を上着のポケットにしまってから彼女は、

「だって……流さんのこと、好きじゃないわけないじゃないの。

 尊敬してるんだよ、なんだかんだいっても。

 頼れるオトナのおにいさんだし。

 お兄ちゃんなんかより――彼のほうが、100万倍頼れる」

 

アツマさんが泣いてしまいそうなことを……。

 

「それなら、できるだけ早く流さんに伝えに行かないと」

「――その前に、ニューイヤー駅伝

「………」

「『流さんとニューイヤー駅伝のどっちが大事なんですか!?』って顔してるね」

「………してませんから」

「利比古くんがツンデレだ」

「………ツンデレてませんから」

「お姉ちゃんに、似てきた?」

「………どこまでも、からかうんですね」

「からかいついでに――」

「………?」

――どっちも大事に決まってんじゃないの。

 ニューイヤー駅伝も、流さんも。

 

『どっちも大事だ』は――便利すぎる言いかた、だけれど。

 

「欲張りですね、あすかさんは」

ニューイヤー駅伝の中継に眼を凝(こ)らしながらも、

「利比古くんも、もっと欲張りになりなよ」

と、彼女は突っぱねる。

 

その突っぱねを、受け止めて、

「ぼくには――あすかさんみたく欲張れる自信、ないですよ。

 欲張れるのも……才能です。

 なにより、貪欲(どんよく)なほうが、あすかさんらしいじゃないですか」

 

「……『貪欲』なんてことば、よく知ってたね」

「知ってますって」

「でも『貪欲』はぶっちゃけ言い過ぎ」

「ホメてるつもりなんですけど」

「言い訳なし!」

「ええっ」

「『ええっ』じゃない!! 

 罰として利比古くんはニューイヤー駅伝の優勝チームを5分以内に予想すること

「……旭化成

なんでそこで即答するのっ

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】てんやわんやで年を越す

 

この邸(いえ)に来てから、最初の大みそかだ。

 

桐原高校に入学して、KHK(桐原放送協会)の一員になって、ほんとにいろんなことがあったなあ。

 

来年も――、

いろんなことが、起きそうだ。

いかにも、波乱が待ち構えていそうな気配。

 

 

『利比古~、コーヒー飲まない~~?』

 

姉が、ぼくを呼ぶ。

 

× × ×

 

「お姉ちゃんはほんとにコーヒーが好きだね」

 

しかも、砂糖もミルクもなにも入れないで飲むのだ。

 

ぼくにしてみたら、ブラックコーヒーなんて、苦くて飲めないんだけど。

 

「…利比古、バルザックって知ってる?」

「フランスの小説家だっけ?」

「そうよ。

 バルザックは、がぶがぶコーヒーを飲んで、小説を書きまくったの。

 コーヒーのおかげで、バルザックは19世紀フランスの文豪になった」

「文豪に……」

「ま、コーヒー飲みすぎたせいで身体(からだ)壊して死んじゃったんだけどね」

「……へぇ」

 

フランス文学について、ひとつ賢くなった。

「お姉ちゃんは、ほんとに文学が好きなんだね」

「まだまだよ、わたしも」

「ほら…部屋の本棚とか、すごいじゃんか」

「あら、そう」

「謙遜する必要ないよ」

「でもねえ…受験勉強のあおりを受けて、読書量が少し減っているの」

「それはしょうがないよ」

「――読みたい本があったら、いつでも貸してあげるよ? 遠慮しなさんな」

「どうしよっかな」

「ただし――」

「?」

「――姉の部屋に入りたいときは、必ず一度ノックすること」

「してるってば、ふだんから」

「ホントか~~?」

「…なんでそんなニヤつくかなあ」

 

× × ×

 

コーヒーを飲んだあとで、

姉といっしょに、ベランダに出た。

 

「寒いねお姉ちゃん」

「もっと寄ってあげようか」

「か、過保護だよ」

「なんで。きょうだいなんだから、べつに過保護とかないよ」

「……スキンシップ、好きだね」

 

そう指摘したら、

顔を赤くして、スネた。

 

ぷいっ、とぼくと逆方向を向きながら、

「――KHKは、どうなのよ」

「気になる?」

「そりゃ、合宿やりに来てくれたんだから」

「麻井会長は――2回来た」

 

家出のときと、合宿のとき。

 

「りっちゃん、どうしてる?」

「2学期も、毎日KHKに来てたよ」

「会長の座を譲らないんだ」

「そろそろ譲ってもらわないと困るんだけどね」

「だいじょうぶだよ、彼女なら、そこんところ、ちゃんとするって」

「…だと思う」

「――あれからりっちゃんとはデートしてないわけ」

 

だ、

出し抜けに。

 

「したわけないでしょ!!」

「誘われないの? あっちのほうから」

「誘われるわけないよっ!!」

「ふぅん。…あんがい、あんたとりっちゃん、似合ってると思うんだけどな」

「先輩後輩っていう関係なだけだよっ」

「年の差カップル、ってのがいいんじゃなーい」

「からかわないでよ」

「年齢も身長も、でこぼこコンビだ」

「…意味わからない」

「ごめん、日本語がかなりあやしかった」

「謝られても困るなあ…」

 

「りっちゃんは――映画好きなんだよね。映画苦手なわたしとは大違いだ」

「映画だけじゃなくて、読書も好きみたいだよ」

「あー、わかるかもー」

「わかるの?」

「――こんど会ったときは、本の話で盛り上がりたいな」

「そのためには、お互い進路を定めないとね」

「いいこと言うじゃないの」

「ぼくは陰ながら、お姉ちゃんも会長も応援してるんだよ」

「受験を――」

「受験を。」

「…『陰ながら』じゃなくったっていいじゃない」

「たしかに」

「もっとあんたには強気になってもらわないと」

「うん……」

「あんまり弱気だとわたし、怒っちゃうゾ☆」

 

アハハ……。

姉は、怒ると怖いからなー。

 

「じゃあ、いま、強気になっていい?」

「――え、どういうことよ、利比古」

 

姉の顔をまっすぐにジーーーッと見る。

 

ドギマギする、姉。

 

「お姉ちゃん。

 ぼくは……アツマさんに負けないくらい、

 お姉ちゃんのことが、好きだよ」

 

 

× × ×

 

姉がキッチンに引きこもってしまった。

 

「愛はどうしたんだ?」

タツの部屋で静かに読書をしていたら、アツマさんが姿を現した。

「ひたすら蕎麦(そば)を茹でて、ひたすら天ぷらを揚げているそうです」

「……年越しソバにはまだ早くないか」

「いいじゃあないですか。大みそかなんだし」

「ま、きょうあすは、特別だわな」

「羽田家では、年越しソバを食べるのが早くて」

「ほお」

「16時にはもう、食べ始めてました」

「ふむむ」

 

床に腰を下ろしてアツマさんは、

「――恋しいか? ご両親が」

「いいえ。心配ご無用、です」

「強いなあ」

感心したみたいに、

「愛は……中等部のときとか、ちょくちょくホームシックになってたもんだが」

「……みたいですね」

「そういうとき、母さんやあすかに任せっきりで、おれはほとんど、なにもしてやれなかった」

「……過去形でしょう?」

「だな」

「アツマさん。甘えんぼな姉ですけど、これからもよろしくおねがいします」

「おう」

 

年末の挨拶っぽく、なったかな。

 

アツマさんは不敵に笑って、

「なあ利比古、来年は、愛の秘密をもっと教えてくれよ」

「秘密ですかー、たとえば?」

「小学生時代のこととか――」

 

アツマさんが言いかけた途端、『ガラッ』と引き戸が開け放たれ、

腕を組みながら仁王立ちしている姉が、視界に飛び込んできた。

 

なーにをはなしているのかなー

 

「…べつになんでもねえよ」

「なんでもないですよね、アツマさん」

 

あまりわたしをイジメるなっ

 

「イジメてなんかないよ、お姉ちゃん」

 

「――利比古も、アツマくん色(いろ)に染まってきた?」

「染まって不都合あるの」

「そうだ、利比古の言う通り。利比古はおれの影響を受けてるんだぞ。もちろん――いい意味で、な」

 

ふ、ふ、ふたりともイジワル

 

姉の声が、ふるふると震えてくる――。

 

「とりあえず、アツマくんは今夜のチャンネル選択権剥奪(はくだつ)」

「なんじゃあそりゃあ」

「と、利比古はっ、イカの天ぷらひとつ没収」

「? どゆことお姉ちゃん」

「あんたの年越しソバの天ぷらがひとつ減るってことよっ!」

「――それで許されるんだ」

「ゆっ許すついでに――、」

「なあに?」

「――利比古、あんた来年は、自力で天ぷらを揚げられるようになりなさい」

「…お姉ちゃんが、教えてくれるんだよね」

「もっ、もちろんよっ。料理の教え上手ならだれにも負けないんだからっ」

「おまえはいますぐにでも料理学校の先生になれそうだよな」

「ぼくも同感です! アツマさん」

なるわけないでしょっっ!!

 

 

――てんやわんや、だけども、

無限に、楽しく時(とき)は過ぎていく。

 

愛すべき、読者の皆さま――、

2021年も、この邸(いえ)を、見守ってやってくださいね。