あたし、茅野(かやの)ルミナです。
大学3年生(法学部)。
ーー、
2020年になってからは、お初?
そうだよね。
もうお正月気分なんて微塵も残ってないけど。
まーいいや。
・音楽鑑賞サークル「MINT JAMS」部室
わけあって、
非常に不本意ながら、
この部屋の扉をノックする。
♫ガチャッ
「やぁルミナちゃんじゃないか」
「ぎゃあっ鳴海が出たっ」
× × ×
部屋には…
あたしのほかに、
ギンと、鳴海と、戸部くん…
鳴海「ルミナちゃん、人のことを妖怪みたいに思わないでくれよw」
あたし「だってびっくりしちゃうでしょ、
いきなりにゅ~っと出てこられると💢」
鳴海……
ほんとムカつくっっ
戸部くん「なにかここに用事でもあったんですか?」
あたし「あ、えーっと、
ひ…非常に言いにくいんだけど、
あたしのサークルの部屋、暖房が故障しちゃったみたいなの。
それで……寒くて……」
ギン「寒いからぬくもりに来たんだな」
鳴海「わかるよ、ルミナちゃんのその、ヌクヌクしたい気持ちw」
ああああああああ鳴海なぐりたいなぐりたい
戸部くん「まぁウチの愛も『冷えるのやだ』って言ったりします」
あたし「あっけらかんと…」
戸部くん「?」
あたし「ところでこの部屋ケトルとかないの」
ギン「ケトル?? ああ、お湯を沸かすやつか」
あたし「そ」
鳴海「ルミナちゃんは紅茶とコーヒーのどっちが好きなの?」
あたし「(# ゚Д゚)割り込まないでよ鳴海!!
このボケナス!!!!!!!!」
~~しーん~~
ギン「ルミナぁ~『ボケナス』はあんまりにもひどいんじゃないのか~」
あたし「(; ゚Д゚)」
あたし「(;-_-)ごめん。
でもわかって。
あたしが鳴海に敵意むき出しだってこと」
ギン「いやそれは普通鳴海さんの眼の前では言わないことだぞ」
戸部くん「そっそうですよ、言い過ぎですよルミナさん。
なんか鳴海さん凹(へこ)んじゃってますし」
えっ…
うそっ
(ヘコーンと凹んだ表情の暗い鳴海)
ギン「な、限度ってものがこの世の中にはあるもんだ。
おれはコンビニでホットドリンクを人数分買ってくるから、
ルミナはそのあいだに反省するよーに」
× × ×
部屋には、
・あたし
・戸部くん
・(冴えない)鳴海
どうしよっ
あたし「……さっ、さっきから、よーがくがずっとかかってるね。
さいきんの、ロックバンドかなあ??」
鳴海「……」
答えてよ鳴海……
間がもたないよっ
戸部くん「2000年代ガレージロック・リバイバル特集だそうです」
あたし「ふーん、じゃあ、さいきんじゃないねえ。
ところで、ガレージロック・リバイバルって、なんなの…」
戸部くん「なんなんですかね~~」
あたし「戸部くんあなたこの1年間ここでなにをしてきたの…
なんにも吸収できてないんじゃないの…?」
ごめん戸部くん、
あたしイラついてしゃべってる。
鳴海「…(これまでとは打って変わって真面目な口調で)ルミナちゃんは、厳しいんだなあ」
鳴海「よし、ぼくが説明しよう。」
(ひとしきりガレージロック・リバイバルについて説明する鳴海)
あたし「驚いた。
鳴海、こんなに雄弁にしゃべれたんだ」
鳴海「ウィキペディアを暗記してしゃべった部分もある」
あたし「あっそ」
鳴海「ほら今度は戸部くんがメランコリックな表情になっちゃったぞ」
あたし「ほんとだ」
あたし「ごめんね戸部くん。
鳴海へのむき出しの怒りが、飛び火して」
戸部くん「ルミナさん……」
あたし「戸部くん……」
戸部くん「だいぶ血色がよくなりましたね」
あたし「」
鳴海「ルミナちゃんはなんでそんなぼくが苦手かなあ」
あたし「単刀直入に言うと、キモいから」
鳴海「女子高生っぽいw」
あたし「鳴海!!」
♫ガチャ
ギン「ただいま~~
ほれルミナ、おまえがいちばん好きな紅茶花◯のミルクティーだぞ。もちろんホットだ」
戸部くん「午後ティーじゃないんすねw」
あたし「好みは人それぞれだし」
ギン「ルミナは、いつも紅茶花◯だったんだ。
いつも同じ自販機で。
中学のときも。
高校のときも。」
あたし「(紅茶花◯を自分のほっぺにあてて)そうだったね。
懐かしいね。
ノスタルジック。」
ギン「ルミナ、それで反省はしたのか?」
あたし「してるよ」
ギン「よしよし、えらいえらい」
あたし「子どもじゃないんですけどっ」
戸部くん「ところで……
鳴海さんが、消えました」
ギン「あれ? いつのまに」
あたし「そうよ。なにトンズラしてんのよっ
……まだ謝ってないじゃないのあたし」
ギン「罪の意識があるのか?」
あたし「『ボケナス』なんてもう言わない、って鳴海に面と向かって言うつもりだったのに」
ギン「よしよし、えらいえらい」
あたし「……」
× × ×
・学生会館を出たらーー
ベンチに、鳴海らしき人間が座っている。
じっと下を向いてて、顔が見えない。
でもきっと鳴海だ。
ほっとこうか。
でも、ほっとけなかった。
「鳴海」
「おおルミナちゃん」
「突然行方をくらまさないで」
「それは…悪かったよ」
「わたしも悪かった。
『ボケナス!』なんて、侮辱して。
今後は罵倒の仕方を考えるね」
「まじめだね…ルミナちゃんは」
「意外にね」
「意外じゃないよ」
「…鳴海???」
「ーーところで。
ギンは、きみのことを、ほんとうによく理解していて、すごいよ。
ーー認めてあげてくれ」
(ベンチから立ち上がり、歩いて去っていく)
なんなの、鳴海。
行動も、意味わかんないし、
言動も、なにがいいたいのか、
ぜんぜんわかんないよ。