【愛の◯◯】京都大学でおいしい空気を吸いたい工藤くん!?

どうもお久しぶり。

わたし、八木八重子。

限界ギリギリを生きる浪人生。 

 

葉山の誕生日(11月21日)が近づいているので、会って、お祝いしてあげなきゃなあと思う。

その一方で、刻一刻と大学入試シーズンが近づいてきていて、余裕がなくて、じぶんのことを考えるのだけで精一杯なときも多くある。

でも、葉山は特別。

親友だから。

いくら余裕がなくても、葉山には、わたしの顔を見せてあげたい。 

 

ところでーー、

 

工藤くん。

工藤卓くん。 

 

 

× × ×

 

・同じクラスの男女4人(わたし、工藤くん、Aちゃん、Bくん)で夕ごはんを食べた

・そしたら……

 

Aちゃん「(幾分わざとらしく?)いけなーい! このあと予定があるんだった!!」

Bくん「(大仰に?)奇遇だなあ!! おれも今日は家に帰らなきゃ!!」

 

 

 

 

「( ゚д゚)ポカーン」

 

「なんで放心状態なの、八木さんw」

「( ゚д゚)だって、AちゃんとBくん帰っちゃった」

「用事があるんだったらしかたないよ」

「(; ゚д゚)わ、わたしも帰ろうかな、」

「まあまあ、もうちょっといいじゃないか」

 

わ、

わたしと工藤くんが、

飲食店に、

ふたりだけの状態。

 

しきりに窓の外に知り合いがいないか、眼を走らせる。 

 

「の、のこってどうするの、工藤くん」

「どうするってw

 ーーどうもしないよ」

 

「(下のスクランブル交差点を見て)…八木さん。

 東京はほんとうに人が多いよなあ。

 多すぎるくらいに」

「…そりゃそうでしょ。

 なにがいいたいの」

「僕、生まれも育ちも東京なんだ」

「わたしもそうだよ」

「ーーちょっと、疲れちゃってさ。」

「なにに?」

「東京に」

「なんで?」

「都会すぎて」

「わたしにはそういう感覚はないけど」

「修学旅行で、京都に行った」

「ぜいたくね、修学旅行なんて」

「!?」

「わたしの出身校は修学旅行なんてぜいたくなモノはなかったの」

「そ、それはすまなかった」

 

ーーなにが「すまない」のかしら。 

 

「とにかく、空気がおいしかったよ、京都は」

 

ーー京都の空気が吸いたいから、

京都大学が第一志望だとでも言うの? 

 

「それ錯覚じゃないの」

「行ってみないからわからないんだよ!」

 

「き、北関東の温泉街の空気はおいしかったわね。

 修学旅行はなかったけど、

 卒業旅行はしたのよ。

 そう、女二人して、北関東の某温泉にーー。

 

 あ、あ、あのころは、よかった」

 

「ーー今だって良いじゃないか」

「だ、だ、だけど、工藤くんあなたは京都の空気が好きなんでしょう。

 わたしはこっちに残るけど、工藤くんは『西』に出ていっちゃうーー」

 

「なにがいいたいの、

 もしかして、僕が京大受けるのがーー、」

それ以上言っちゃダメっ

 

1000円札をテーブルに叩きつけて、

走って逃げるように、店を飛び出した。

 

 

ーーだめ。

素直になれない。

なれないし、

工藤くんの前だと、

なんだか支離滅裂になる、

「そんな地点」まで来てしまったみたい、

高校時代の放送部のことでも話の「まな板」に出したらよかったのに、

工藤くんとのあいだに「わだかまり」ができちゃう。

 

 

……工藤くんとのことは、じぶんでなんとかするとして、

とりあえず、昂(たか)ぶる気持ちを落ち着かすために、

温泉旅行のパートナーだった小泉小陽(こいずみ こはる)に、

スマホで助けを求めたのだった。