ニチアサ
「~ムニャムニャ」
♫ピンポーン♫
あれ、誰かおれんちに来た。
『おはよう、おばさん。
ギン、まだ寝てるの?』
ルミナかよ。
♫ドドドドドドドドドド♫
階段を駆け上がってくる足音。
起こされる。
♫ガンガンガンガンガンガン♫
♫ドバーン♫
「(布団にもぐったまま)ああルミナちゃんおはよう」
「もう10時なんだけど」
「ほんと? さむいねー」
「(布団を剥(は)ごうとして)起きなさい💢」
× × ×
「何の用」
「べつに…」
「おれを起こすためだけに来たとかw」
「べつに……」
まあいいや。
ルミナの好きにさせておこう。
音楽雑誌でも読むか。
・音楽誌『開放弦』のバックナンバーより
「1999年の邦楽について」
圭二「1999年。ノストラダムスの恐怖の大王とか言われてましたが、もう20年前ですよ。はやいですねえ~」
小鳥遊「わたし4歳でした」
圭二「わかいですねえ~」
イチロー「ぼくと圭二は11歳」
圭二「小学5年生だったわけだ」
イチロー「この年いちばん売れた曲は--言われなくてもわかるよ。
『だんご3兄弟』だろ」
小鳥遊「幼稚園で毎日歌ってましたね~」
イチロー「モーニング娘。の『LOVEマシーン』も、だんご3兄弟同様、社会現象みたいだったけれど…」
小鳥遊「幼稚園で毎日歌ってましたね~」
イチロー「(=_=;)」
圭二「宇多田ヒカルも社会現象だったね」
圭二「椎名林檎のナース服も社会現象」
小鳥遊「社会現象のオンパレードですね!!」
イチロー「(=_=;)」
「ーーとまあ、こんな調子で、この雑誌、どこまでがギャグでどこまでが本気かわからないわけだ。
とくにこの『圭二』っていうひとが担当してる記事は。
新入社員の『小鳥遊』さんが登場してから、さらに収拾がつかなくなっちゃってるのが、逆に前よりも面白おかしくてーー」
「ギン、自分の世界にはいんないでよっ」
「ああごめんごめん、この『開放弦』って雑誌、売れ行きがどうかは知らないけど、ぼくは面白いと思って読んでるんだ」
「あ、そう。
ギン、あんたのPCに入ってる音楽、流すね」
「ひとのパソコンを断りもなく…」
「エロ画像でも隠してんの?」
「…やれやれ」
「隠してないんならいいでしょ」
「…やれやれ」
「村上春樹かっ💢」
「ギンこのPC重すぎ💢」
「買い換えるお金がない」
「このPCがかわいそうだよ」
「いまあるものを大事にするしかないんだ」
「ギンが物を大切にするようにはみえない」
「(棒読みっぽく)ひどいな~」
「ああっもうイライラする💢」
「どして?」
「というかアタマ痛い💢」
「偏頭痛?」
「そんなところかもね💢」
「ストレスだな」
「ちがうもん💢」
「ルミナが『ちがうもん』って言うときは、違わないときだw」
(押し黙るルミナ)
「ギン……、
あたし疲れた……」
「公務員試験の勉強」
「どうしてわかるの……」
「なんとなくw」
(ルミナ、床に腰を落とし、ベッドに力なく寄りかかる)
「大丈夫か? 魂が抜けたみたいに。
頭が痛いんならバファリンでも持ってきてやろうか」
(ルミナ、おれに寄り添い、右肩にじぶんの頭を乗っけてくる)
「おいおい」
「ギンにたすけてほしかったの」
「おれんちに来た理由が?」
「ギンのへやにきたら……おちつくとおもって」
「まいってんなあw」
「ギン……どうなったら、あたしげんきになれるとおもう?」
「ま、もうすぐ昼だし、メシでも食ってけよw」
「おばさんのチキンライス。
おばさんのチキンライスがたべたい」
「ーー5年ぶりだな。
おまえが母さんのチキンライスを所望(しょもう)するの」
「おばさんのチキンライスたべたい、たべさせて。
チキンライスじゃなきゃやだ」
「わがまま言うなよ、材料がないかもしれないだろう?」
「やだやだやだやだ!」
「ーーわかったよ。
母さんにチキンライス作れるか、訊いてくる。
材料なかったら、おれが近所のスーパーまで買ってくる。
それでいいだろ?」
「(おれの右肩に顔をうずめて)
ギン……ごめんね。
あんたのパソコンに、ひどいこといって」
「謝るの、そこかよww」
「ギンにはあやまりたくない。
ありがとうーー、って、いいたいんだもん」