戸部邸
朝
朝ごはんの支度ができたので、
ダイニングで本を読んでいた。
「ふあ~、おはよう、愛」
「アツマくん眠そうね」
「こんな朝早くはそうだろ。
あ! もう朝飯作っちゃったの?
愛は、テキパキしてるな」
「きちんとした大人になりたいからよ」
「ふうん…真面目なんだな。
おまえは意外と不真面目な面もあるが」
「…マジで?」
「そういう、お嬢様気質かと思ったら唐突に『マジで』とか言っちゃうところが」
「じゃ、じゃあ、み、みだりに『マジで』とか言わない大人になりたいわね。
言葉遣いはキチンとーー」
「ま、自然体がいちばんなんじゃないの?」
「話は変わるけどさ」
「うん……」
「…髪切っただろ?」
「さすがにわかる?」
「わかる」
「ねえ、アツマくん…、
…、
…、
髪、
伸ばしたほうが、好き?」
「かなり伸びたよな。
おまえが高校に上がったぐらいから。
はじめは、『なんでそんなに長く伸ばすんだろう』って思ったけどさ、
今はおまえに馴染んでると思うよ、その長い髪。」
「ーー『好き』かどうか訊いてるんだけど」
「なんだよ、
『好き』に決まってんだろ!?」
「わたしの伸ばした髪ーー好きなのね?」
「だって、それがおまえらしさだから。」
もはやわたしの手は文庫本を閉じており、
アツマくんの眼を思わず見つめた。
そうすると、うれしいし、はずかしかったから、
自分の眼を閉じて、深呼吸した。
「…どした? 深呼吸なんかして」
「ーーありがとう、アツマくん。
今度は新しいエプロンでも作ってみようかな」
「エプロン? なんで?」
「もっとアツマくんに気に入ってもらえるようなエプロン。
『そのエプロンが好きだ』って言ってくれるようなエプロン。」
「今着てるエプロンもいいと思うぞ?」
「(自分のからだを見て、)似合ってる? このエプロン」
「うん、似合ってるよ」
「じゃあ今よりもっと似合うエプロンを作りたい」
「(^_^;)……ハードルを、じぶんで上げるんだな」
「だって。
生きるって、向上心でしょう?」