【愛の◯◯】吉野弘の漢字遊び

「幸(さいわ)いの中の人知れぬ辛(つら)さ

 そして時に

 辛さを忘れてもいる幸い。

 何が満たされて幸いになり

 何が足らなくて辛いのか。*1

 

「めずらしいな。

 あすかが、詩を朗読してるなんて」

 

「お兄ちゃん」

 

「だれの詩?」

吉野弘さんっていう詩人だよ。知らないの!?」

「……」

「あのね、『漢字喜遊曲』っていう詩を、読んでたの」

 

 

吉野弘詩集 (ハルキ文庫)

吉野弘詩集 (ハルキ文庫)

 

 

吉野弘詩集 (ハルキ文庫)

 

「(本を手にとって)…『漢字遊び』?」

「そう。面白いんだよ。

 漢字のかたちや部分から、いろいろ着想を得て。」

 

  

 

忌(い)むべきものの第一は

己が己がと言う心

 

 ※「同類ほか」より*2

 

「(本のページを眺めながら)ふうん。『忌』っていう漢字を、『己』と『心』に分けてるわけだな。」

 「そうそう」

 

幸(さいわ)いの中の人知れぬ辛(つら)さ

そして時に

辛さを忘れてもいる幸い。

何が満たされて幸いになり

何が足らなくて辛いのか。

 

「わたしが読んでた詩について言うなら、ほら、幸せの『』っていう漢字の中に、辛いの『』っていう漢字が、入っているでしょ?」

「たしかに、妙に、幸せの『幸』と辛いの『辛』って文字が似てるなあ、って思ったことあるかもな。

 反対の意味なのにな」

「そこを、吉野弘さんは、興味深いって思ったんじゃないの?」

 

 

 

何が満たされて幸いになり

 何が足らなくて辛いのか。」

 

「よっぽど気に入ったんだな、もう一度声に出して読みやがってw」

「(ー_ー;)いいじゃん、べつに!」

「…でも、なんか、深いよな」

(ノ≧∀)ノ ね? わかるでしょ、お兄ちゃんも!

 

× × ×

 

そのまましばらく、兄のとなりで、『吉野弘詩集』を上機嫌に読んでいた、わたしだったのだがーー。

 

「…あすか。」

「なにお兄ちゃん」

「おまえ…、

 いつもより、距離が近くないか?

 

ーーきょ、きょりがちかい、って、どういういみ?

 

「いや……、

 いつもより、おれの近くで、本、読んでるなーって(ポリポリ)」

 

!!!

(ソファーの端に素早く移動するわたし)

 

「(^_^;)いや、逃げなくてもいいだろ~」

 

× × ×

 

お兄ちゃんとの距離感が、

つかめなくなったのか、

それとも、距離が縮まったのかーー。

 

たぶん、

わたしのほうから、

お兄ちゃんに、歩み寄るようになった、

(~_~;)そういうことに、しておこう。

 

*1:吉野弘詩集(ハルキ文庫)161ページより

*2:同上、175ページ