部活後、蜜柑さんから連絡があって、
アカ子さんの家に呼び出された。
何の変哲もない平日なのに……。
ま、いっか。
私服のアカ子さんが、出迎えてくれる。
なんだか、待ち遠しそうな眼をしているのは、気のせい?
「ごめんなさい、休日でもないのに」
「ま、いいんだよ」
「部活帰りよね?」
「そうだよ」
「疲れたでしょ?? なにか飲みものもってくるわ」
そう言って奥のほうに歩いていこうとするアカ子さんだったが……、
テーブルの支柱に足をぶつけて、ドタバタとすっ転んだ。
(^_^;)おいおい。
「イタタタ…」
「大丈夫…じゃ、なさそうか(と言って手を貸す)」
「は、ハルくぅん!?!?!??!dmjswmjswmjswrtf;ふぇ」
どうしてそんなに混乱してるかは知らないが、
手を貸して、アカ子さんを立たせた。
転んでいるアカ子さん……、
なんだかとても小さく見えた。
こんなにアカ子さん、小さかったっけ。
× × ×
「ねえ、きみ、身長何センチ」
「………………………………158センチよ。でも忘れて」
「えw」
それぐらいの身長だろうとは、
以前から思っていた。
でも、きょう、こんなに小さく見えるのは、
ぼくの身長が伸びたからかもしれない。
そんなに伸びたかなあ?
アカ子さんは例によってピアノの前に座った。
「ーーかなり前のことだけど」
「うん」
「音楽のはなしになったことがあったじゃない? 公園で」
「あー、ペット・ショップ・ボーイズがどう、とかいう?」
「そう!」
bakhtin19880823.hatenadiary.jp
「へぇー、きみもスマホで音楽聴いたりするんだね」
「( _・;)…20世紀に生きてるわけじゃないのよ」
「なんでソッポ向いてんの?w
ぼくは音楽なんか全然聴かないからさー。
そうだ、ペットショップ・ボーイズって知ってる?」
「( Д`;)音楽なんか全然聴かないひとが、なんでペットショップ・ボーイズを知ってるのかが不可解なんだけど…」
「あー、あれは、たまたまラジオかなんかで聴いた曲が、いいなあ~って思ってさ、そのアーティストがペット・ショップ・ボーイズだったってだけの話さ」
「それ、どんな曲だったか、憶えてる!?」
「ん~、『ワン・イン・ア・なんとか』みたいな題名だったと思う」
「……この曲よね??」
おもむろにアカ子さんはピアノを弾き始めた。
♫"One in a Million"♫
「あー、これだ、これだ、よくわかったねえ!
というか、よく弾けたねえ!!」
なぜかピアノの前で硬直状態のアカ子さん。
「おーい、アカ子さん??」
「うれしい」
「?」
「……」
「うれしい、ほめてくれたのね、うれしいわ、ハルくん」
すごくいい笑顔だ。
もとから美人だ、とか、そういうの関係なく。
なにかをやり遂げたあとのような、すごくいい笑顔に、
ぼくは思わずドキッとする。
× × ×
「それじゃあ、遅くなっちゃいけないし、帰るよ」
「( ;・д・)えっ、もう帰っちゃうの」
「だってもう遅いし」
「だけど……」
「ま、どうせあの公園で会うだろうし、いいじゃないかw」
「(叫ぶような声で)『偶然』じゃだめなの!!!!!」
いきなり、ぼくの腕を握るアカ子さん。
アカ子さんの手は、ふるふる震えている。
どうしたってんだ……。
ぼくが振り向くと、恥ずかしそうにしているアカ子さんがすぐそばにいる。
アカ子さんのからだが、これまでになく、小さく見えた。