【愛の◯◯】さみしがりやハンバーグ

放課後

「あ、ねえ愛、これから晩ごはんの材料を買いに行くんだけど、少しつきあってくれない?」

「ごめん、さやか、これから文芸部の部活で読書会あるのよ。わたし今回ホストだからどうしても抜けられなくて。

 ごめんねー」

「わかった。部活、がんばってね」

 

ーーま、仕方ない。

アカ子も、いつの間にか帰ってしまった。 

 

晩ごはんの買い物だし、

授業終わったばっかりの今から行ったとしても、

早すぎたかもしれないし。 

 

どうしよ。

どうやって時間つぶそ。

(^_^;) こーゆー時、帰宅部って困るんだよね。

 

× × × 

 

ふと、弦楽部が練習する音楽が聞こえてきた。

 

帰宅部じゃないや。

正式には、「元・弦楽部」ってところか。

 

今更になって、

もう、あの場所には、戻っていけるはずもない。

 

 

 

ーーなんかむなしくって、

弦楽部の音が聞こえてくるその場所をわたしは離れた。 

 

× × ×

 

弦楽部の練習してる場所からかけ離れた校舎の近くに、

ふらふらとやってきたら、

今度は吹奏楽部の演奏する大きな音が響いてきた。

 

放課後、吹奏楽部が練習する音の響き。

たぶん、どの学校でも、

当たり前にある、放課後の響き。

 

 

 

ふと、校舎の窓際に、

荒木先生の後ろ姿が見えて、

わたしは思わず目をそらす。

 

荒木先生が吹奏楽部の顧問なことぐらい、

頭にいれてる、

わかってる、

わかってるよ。 

 

 

 

 

 

青島家

キッチン

 

ハンバーグを作ろうと思った。

 

ただハンバーグを作るのではなく、

荒木先生のためにハンバーグを作る、

 

 

 

 

……、

つもりで。 

 

バカだなわたし、

そんなシチュエーション、あるわけないじゃん、

 

荒木先生に晩ごはんを作ってあげる、なんて。 

 

 

バカだよわたし、

ほんとバカだよ、

じぶんの兄より若いとはいえ、

立派な社会人なんだ、

荒木先生は。

大人なんだ。

なのになんで、

なんで、

好きになっちゃったんだろ、

生徒が教師を好きになるなんて、

ほんと、ありえない。

ーーわたしは、ありえない世界に、

足を踏み込んでしまって、

それでもって、今こうやって、

思案しながら、

こねこねと手でハンバーグの「タネ」をこねているわけで。

 

ハンバーグを焼く前に、あらためて思う。

材料買う前から知ってたことだけど、

作ったハンバーグ、だれに食べてもらうのよ。

 

荒木先生来るわけないじゃん。

 

兄さんは一人暮らしのうえ仕事忙しいし、

きょうは両親の帰りも遅い。

だとしたらわたしが、

自分で自分が焼いたハンバーグ食べるっていうの?

勢いに任せて作ったけど、

わたし、愛や葉山先輩みたいに料理うまくないし、

自分の作ったハンバーグの味に自信ない。

 

お笑いごとね、

「荒木先生に作ってあげる」なんて幻想に過ぎなくて、

けっきょく自分が食べる晩ごはんで、

オママゴトしてただけじゃん。

 

「……なにやってんだろ、わたし。

 ぜんぶ空回り。

 むなしすぎ。」

 

スマホのバイブ音

 

「もしもし…、愛?」

 

『部活早く終わったんだー。さやか、晩ごはんの材料買う、って言ってたよね? もしかして、もう作ってたりする?』

「い、今から焼くところ、」

『あ、もしやハンバーグだったりする?』

 

どうしてわたしの作ってる料理わかったの……

 

『当てずっぽうに決まってるでしょ!w

 あのね、実はこれからわたし葉山先輩と合流するつもりなんだけど、さやかハンバーグ何枚焼くの?』

「2枚」

『そっか、じゃあわたしと葉山先輩で半分こすればいいよねー』

え、ええええええ、あんたたちこっち来んの!?

 

『だってさー。

 さみしそうだったんだよ、さやか、さいきん。

 あんまりさやかのことかまってあげられなかったなー、って反省してて。

 わたしが放課後文芸部やら何やらで駆け回ってて、それで、さやか帰宅部じゃん?』

元・弦楽部…

『ほら、そうやってすぐ自虐的にならないのっ。

 さやかは、自分を自分で追い詰めすぎなのよ』

 

 

 

「アカ子に、晩ごはん食べてるとこ、スマホで撮って忘れずに送信しなきゃ」

『あ、忘れてたw』

「こ、コラッ!!」

『素で気が付かなかった』

「アカ子がかわいそうじゃん!」

……わたしより気くばりできてるじゃない。

 すごい、すごい

「・・・・・・」

 

『じゃ、もうすぐ行くから、いったん切るね』

 

 

 

 

 

× × ×

 

『おじゃましまーす』

 

 

愛と葉山先輩が来た。

 

 

 

 

キッチンに入ってくるなり、 

無言でわたしは愛を抱きしめた。

 

眼をまん丸くする、葉山先輩。

 

 

(動揺して)さ、さやか!? そんなにさみしかった!?

「うん。

 

 やさしいね、愛は。ほんとに、やさしい」