【愛の◯◯】美味しいスパゲッティの作り方(前編)

昨日は、羽田さんが、電話で話し相手になってくれた。

学校は多分春休み。

でも、そんなにしょっちゅう羽田さんに連絡したりして過剰に寄りかかるのは、お互いにとって良くないと思う。

「頼りにしてくれていい」と彼女のほうでは言ってくれているけれども、羽田さんには羽田さんの人生があるのだ。

 

月曜日の朝。

平日の朝だ。

八重子は、予備校に入る手続きを進めていることだろう。

八重子には、休んでいる暇がない。

いっぽう、私はーー(-_-;)

 

ーーーーー


「もしもし」
「アン? 今話しても大丈夫?」
「いいよ。でも少し待ってね、今通話してると危ないから」
「え、どういうこと」
「部活の面倒を見てるの」
「サッカー部だっけ」
「そうだよ。ボールが飛んできて、スマホが破壊されるといけないから」
「いやあんたの身の危険を考えなさいよ、そもそもあなた卒業生でしょ?」
「慕ってくれる後輩が多くてね」
「『偉大なるOG』ってわけ」
そうね!

 

 

「はい、話してもいいよ」
「ん・・・」
「どうしたの」
「ちょっと言葉が出てこなくなって」
「何それw」

 

「ごめんね、なんか私他人に依存してるみたい」
「はーちゃん、そういうこと言う人ってねぇ、大抵、『思い込み』なんだよ
「思い込み・・・」
はーちゃんは私の恩人なのよ
「・・・」
「はーちゃんが家庭教師してくれたおかげで、戸部よりも偏差値高い大学行けたんだから」
「それはありがとう」
「人ってのはさ、お互い迷惑をかけあうもんじゃないの」
「悟ってるみたいね…。

それに、私のほうが、あなたに一方的に迷惑かけてる。そんな気がする」
「それも『思い込み』じゃない?」
「あ」
わたしはあんたが思っているよりめんどくさいヤツだよ
そんなことないわ、アンのほうがまともだわ
いつか分かるよ
「そうかしら」

 

「あのね、わたし、何もすることがないの、街に出てもふらふらして、例えば――パチンコ屋にふらふら入っちゃったりしそう
「確かにw」
「ーーでもそれじゃだめでしょ」
「親御さんに迷惑かけたらねえ」
「うん・・・」
「前にさ。はーちゃんに、髪を直してもらったことがあったじゃない」
「それはあなたがあまりにもだらしなかったからーー」
むつみは真面目ちゃんなんだよ~!w
「あのねえ」

 

「まあ、わたしに限ったことじゃないけどさ、たいていの人間って、気張って生きてないし、案外だらしない。

だから、はーちゃんはむしろ立派なんだよ?
それは…、どうも

 

「でもわたし、そうは言ってくれるけれど、身の回りのことをするの、実は苦手なほうなのよ?」
「部屋が散らかる?」
うん・・・
じゃあその弱点は弱点として認めなさい」 
ーーアンも、立派だね
「そう?」

 

「ねえ、弱点の反対って何だろう
そりゃあ、自分の強みに決まってるでしょ!
「本当だ」
はーちゃんおかしいwww
うるさい。

 

 

ーーーーー

 

随分と長電話になってしまった。

まあいいや。

わたしの強みって何だろう。

一つは、料理?

 

家にあった食材で、スパゲッティを作ることにした。

お湯を沸騰させ、塩を入れてスパゲッティを茹でる。

その間に、野菜とソーセージを切る。

茹で上がったスパゲッティのお湯を切って、具を炒め、スパゲッティを入れて混ぜ合わせ、カゴメトマトケチャップで味付けをする。


考えてみたら、得意とは言っても、何も特別なことをしていない。

手際がいいだけ。

半年前までは、『卒業したら自分で生活するんだ』なんて妄想していたんだから、自分の料理の腕前に、うぬぼれ…みたいなものを抱いていたんだろう。

 

だとしたらーーほんとうに、料理ができるのはわたしの強みなんだろうか……。

 

一人で食べるナポリタンは、あんまり美味しくなかった。


同じ一人でも、喫茶店で食べるナポリタンのほうが美味しい……。

 

 

・迷いの中にいる葉山先輩。

・後編につづく