【愛の◯◯】あたしだって永井荷風読むわよ、そりゃーこの学校で現国の教師やってる(ry

放課後

図書館

文芸部部長に就任したばかりの香織さんが、不思議そうな顔で、黙って本を読んでいるあたしのほうを見ている。 

 

「何かしら? 香織さん」

「き、きょうの伊吹先生……、

 文芸部の顧問みたい

 

_| ̄|○

 

う、うそです!! うそ

 

せっかく常用じゃないメガネまでかけて、知的な雰囲気を少しでも醸し出そうとしたのに~ 

 

「でも伊吹先生がメガネって珍しいですね」

「羽田さん」

「ーー永井荷風ですか?」

 

 

ぼく東綺譚 (新潮文庫)

ぼく東綺譚 (新潮文庫)

 

 

「そうよ、『濹(ぼく)東綺譚』」

 

ちょっと羽田さんに意地悪してやろっ。

 

「羽田さん。『濹(ぼく)東綺譚』の『濹(ぼく)』って、漢字で書けるかしら?」

「(・_・)はい。 (ノートにスラスラ…)」

 

(;´Д`)か、漢検一級……

「(^_^    )やだなー、漢検とか受けたこともないですよ」

 

 

「……( ´・ω・)なんだ、この本読んだことあったのね」

 

「羽田さん、伊吹先生が読んでる『濹(ぼく)東綺譚』って、どんな作品なの?」

「香織さん、えーとですね、語り手は小説家で、語り手はもう若くない、時代から置いていかれているという意識もあって、それで、『お雪』という女のひとが出てきて、お雪は、えーとですね、えーと、えーと」

「ど、どうしたの? 羽田さんらしくないよ、小説の紹介の途中で口ごもるなんて」

「お雪は、お雪は、・・・・・・

 

(・∀・)羽田さん、赤面! 

 

・・・・・・

 

「まあ、高校生にはちょっと早いかもねー」

「えっ、先生、エロいんですか、その小説?」

まっ、香織さん、『エロい』なんて、はしたないですわよ

 

「(-_-;)先生、裏声で変な言葉遣いしないでください」

「あ、羽田さん復活した」

「語り手がラジオや映画をすごく毛嫌いしていた記憶があるのですが……」

「本文だと『ラディオ』や『活動写真』っていう書き方になってるけどねー。

 

 ーー『わたくしは殆(ほとん)ど活動写真を見に行ったことがない』」

 

「(; ゚д゚)す、すごい! それ『濹(ぼく)東綺譚』の書き出しですよね? 書き出しを暗唱できるほど読み返してるんですか、伊吹先生!?」

 

「5,6年ぶりくらいかなあ? これ読むの」

「えっ」

「でも、これね、あたしの大学時代の愛読書

「(; ゚д゚)い、意外すぎる…!」

 

「ま、もとは専攻の演習で習ったんだけどね」

早稲田の文学部でしたよね?」

(つД`)香織さんにまで出身大学勘違いされた~

 

「舞台が1930年代の東京なんだけど、出てきた場所が今どうなってるのか、確かめに行ってぶらぶら歩いたりした」

「すごい愛読ぶりですね。じゃあ卒論も荷風で?」

わーすれたっ

怒りますよ!?

「(^_^;)お、おこらないで羽田さん、わすれたのは本当だけど」

 

「さらっと凄いこと言わないでください」

「羽田さん、あたし高校時代に読んだ本で『国語教師になろう』って決めたんだけどね」

「なんで教育学部に行かなかったんですか?」

「(´・ω・`)教育学部は落ちたの」

「す、すみません」

 

「で、先生に教師志望を決意させた本って、何だったんですか?」

「ひ・み・つ」

「(;´Д`)えぇ…」

「さ・が・し・て。

 すごく有名な小説で、文庫で大量に出回ってて、規模が極端に小さくない書店だったら必ず置いてあるから。もちろんこの図書館にもーー羽田さんも、読んでるかもしれない」

「ヒント。」

「『高校の・国語教師』」

 

「(正解の小説を持ってきて)これですよね?

「(^_^;)よ、読んだことあったのね、やっぱ?」

「(首を横に振って)いいえ?

(゜o゜;