『また会いたいっていうのが、嘘だったら、また会いたいっていうのが嘘なことが嘘になるけど』
ピアノセッションのとき。
キョウくんのことで。
羽田さんに向かって、こんなふうに言っちゃったんだけど、
冷静に考えれば、おかしい論理で。
もし、キョウくんに会いたいのが嘘だったとしたら、キョウくんに会いたいのが嘘だというのが嘘になる。つまり、キョウくんに会いたいのが嘘ならばキョウくんに会いたいというのは本当の気持ちなのだ。
あ、あれ、
これって……、
トートロジーってやつじゃない!?
『幼なじみに対する気持ちの整理がついてない?』
『そう、しばらく会ってないんだけど、会いたい気持ちと、会うのを拒(こば)む気持ちとが……』
『うんうん』
『こう……ごっつんこしてて』
『(^∇^)アハハハハ!』
『(;´・ω・)』
『はーちゃんさ、キョウくんに、会うのがこわい、そういう気持ちもあるの?』
『だってしばらく会ってないのよ!?』
『どれくらいかによるっしょ』
『いまの学校に入ってから、ずっと……』
『じゃあおよそ六年ってところか』
『そんなになるんだ……( ゚д゚)ポカーン』
『なんではーちゃんが驚いてんのよwww』
『あのね、わたしが知ってるキョウくん、声変わりする前のキョウくんだから』
『そこかー』
『お互い背が伸びて、キョウくんは声変わりして、わたしはえーっと』
『胸がふくらんで』
『ほかにもまぁ…諸々(・_・;)』
『それに第一キョウくんどこにいるかわかんないし』
『親御さんの名前知らないの』
『おぼろげに』
『それはよくないなー。
でもさー、幼なじみってことは、家族ぐるみの付き合いだったんじゃないの?』
『まあ、当時はそのような──』
『だったら、あんたのお父さんお母さんに訊いてみたらいいじゃあんwwwww』
『あっ』
『……藤村さん、わたしね。』
『はいな』
『思春期……?? になってから、いろいろおかしくなって、たぶんアタマがおかしいんだ、家族ともいろいろあって、ほんとに──』
『仲悪いの?』
『ちがう! いろいろあったから、わたしのこと、いろいろわかってくれてるおとうさんもおかあさんも』
『──よかったじゃんw
それにさ、はーちゃん、あんた、じぶんがアタマおかしい、っていってるけどさ。
いま、はーちゃん、じぶんの状況をちゃんと判断して把握して、わたしに言えてるじゃないの。
この前のピアノライヴでも愛ちゃんと一悶着あったみたいだけど、それがよかったみたいだね、どうも』
たしかに──。
藤村さん、思ったより、大人だ。
わたしが気張ってて。
『そうね、お父さんとお母さんに訊いてみる』
『でも、男の子のことを知りたい、ってことだよ、勇気出せる?』
『う……、
うん。
無問題(モウマンタイ)』
『なぜに無問題(モウマンタイ)……』
『藤村さん、やっぱりわたし、キョウくんに逢ってみたいから』
『勇気出せる?』
『こんなの勇気のうちにも入らない』
『ところで藤村さん』
『あのさはーちゃん、わたしのこと名前で呼んでくれてもいいんよ』
『Σ(゚ロ゚;)ええっ!? CLANNADの藤林杏(ふじばやしきょう)と混同されるから、杏(あん)って呼ばれるのはご法度(はっと)では』
『ご法度なんて、ぜんぜん言ってないよ?』
『はい??』
『だって藤林杏云々クラナド云々でいじめられたのってはるか昔のことだし。いまはーちゃんが名前で呼んだって、そうだなはーちゃんじゃあなくったって、気にしない。
戸部に杏(あん)って言われるのだけはシャクだけど、ね♪』
『あー、そう(・_・ )』
『じゃあ、アン(杏)。』
『お』
『お、じゃない💢
アン?
あんた大学受けるんだよね』
『受けるよー』
『第一志望は?』
『ふーん。そこらへんか』
『どうせはーちゃんは東京大学とかでしょ?
はーちゃんは天才肌だから京大に行くのかもー、とか思ってたりもしてるけどさ』
『──そうね。
ε- (´ー` ) 』
『あのね、わたし、とうぶん大学受けないからさ、』
『は、はぁ!?』
『(予想通り取り乱して)ちょ、ちょ、ちょっとどういうことそれ!?
むつみ!(←わたしの本名)
もったいないってもんじゃないよ、それ!? 怒るよ!? そんなこと言ってたら ──』
『と・に・か・く・受けないって決めてるのっ!
……親と合意のうえのことなんだよ。
合意してなかったら、こんなにはっきり言わないって。
わかってくれる、よね?』
『……ごめん。
正直とまどってる。
そういう考え方の子、はーちゃんが初めてだから。』
『納得出来ない?』
『理解は…するようにする。
でも…ごめん、呑み込めなくて』
『アン』
『は、はい。』
『アン、あんたん家(ち)に行きたい。
そんであんたの家庭教師してあげる』
『(30秒間の沈黙ののち)
……。わかった。
あ、ありがとう』
『こちらこそ。
ありがとう、アン(´へωへ`*)』