8月18日 本が読めなくなった

「いや~ごめんごめん誤解させちゃって、コイツに『じゃれてた』だけだからw」

「『じゃれてた』って、どういう意味ですか……(殺気)」

「ま、まぁ!! 愛も、藤村も、なかよくなかよく(尋常でない焦り)」

「……(微笑みながら、流し目で愛を見る)」

「……(舌を噛み、スカートの裾をギュッと握り締める)」

 

 

8月18日 朝

予備校から帰るアツマくんと腕を組んでいたのは、アツマくんと学校で同じクラスの藤村さんだった。

 

◯愛の部屋

(ベッドのなかでもぞもぞしながら)「どうしてどうしてアツマくんも藤村さんもどうしてどうして」

 

 しばらくベッドの中で転がり続ける愛だったがーー

 

♪ブルッ♪

 

「藤村さんから、LINE通知……」

 

渋々起き上がる愛。

 

昨日は悪かったね~

悪いです!!

メンゴメンゴw

 

「……かわいいスタンプ……」

 

あのねー、私、戸部のことなんか、なんとも思ってないから

はぁ……

むしろ、愛ちゃんの背中を、押してあげたい

 

 

 

 

 

 

 

 

(かぶっていた布団を投げ飛ばして)

はいいいいいいいいぃいいぃっっ???????

 

な、なにいってるんですかぁ

なにって、好きなんでしょ、戸部のこと

???????!??????!!

お、落ち着きなさい(^_^;)

 

・思わず「通話」ボタンを押してしまう愛

 

藤村「あ、愛ちゃん、落ち着きなさい、深呼吸深呼吸、ほら?

 すーーーーっ」

愛「すーーーーっ」

藤村「はーーーーーっ」

愛「はーーーーーっ」

藤村「すーーーーっ」

愛「すーーーーっ」

藤村「はーーーーーっ」

愛「はーーーーーっ」

 

 

 

 

愛「(激しく動揺しながら)どこでわかったんですか……」

藤村「バレバレ。

 喫茶店に上がってくる私と戸部を見た時の慌てっぷりで」

愛「(しおしおにしおれた声で)わたし…わたし…

藤村「どうしたい?

愛「どうしたいって……どうしたらいいかわかりません

藤村「わかるんだ」

愛「なにがですか

藤村「年上の男、好きになっちゃった子の気持ち」

愛「どうして

藤村「わたしもそうだったから

愛「!!

 

藤村「わたしもね……高1のとき、3年生の先輩に片思いしてて……。

 

(軽い沈黙)

 

けっきょく、ダメだったけどね」

 

愛「・・・・・・・・・・・」

藤村「(シャッキリした声で)あのね、これから戸部にどう気持ちを伝えるかは、愛ちゃん次第だと思うの、愛ちゃん自身で、気持ちを伝える方法を考えてほしいの。相談には乗ってあげるけど、最後はやっぱり自分でーー」

愛「その前に気持ちの整理がつきません!!

藤村「アハハ、今はまだ、そうだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・時計。

針はとっくに10時を回っている。

 

「・・・・・・・・・(・_・;)」

 

なにが、どうなって。

朝から、目まぐるしく「こと」が動いた気がして。

考えは巡らせたけど。

ノートになにか書いてみたりしたけど。

なんの前進もなくて。

 

(ベッドに座り込んで頭を抱える愛)

 

「あーーーーっもう、気が狂いそう」

 

そういえば。

さいきん部屋が乱雑になってるような気がする。

整理整頓が、うまくできない。

部屋の乱れは、こころの乱れーー??

 

本がグチャグチャ。

積まれた本の、ジャンルが不規則。

 

「あの本、どこにあったっけ?」っていうのが、即座に思い出せなくなった。

本を大事にしてないーー。

 

おかしいよ、わたし。

きのうも、本棚の前でアタマが混乱したり。

 

きのうかばんに入れて持っていって、書店の喫茶店で読もうとして、けっきょく読めなかった3冊。

机の上にある3冊。

きょうは、きっと読めるーー。

 

 

リビング

 

 「すーーーーっ」

 

「はーーーーーっ」

 

「すーーーーっ」

 

「はーーーーーっ」

 

深呼吸して。

気持ちを整えて。

 

きょうは、ページを開けば、きっと読める!!

 

 

 

 

 

通りかかったアツマ「愛。」

 

アツマ「おーい、愛?」

 

アツマ「愛さ~ん?(^_^;)

きのうのことで気を落としてんなら、気にすんなよ~」

 

 

アツマ「んっ」

 

愛の野郎、おかしい。 

 

かなりヤバい意味合いでおかしい。

 

ソファに座ってうつむいてるんだけど、その、うつむいてる表情が、かなり、ヤバい。病んでる

 

この前、『さみしい』って俺を引き止めたときは、気丈に振る舞ってたけど、やっぱり、ダメになりかかってるみたいだ。

 

 

アツマくん……。

 

本が、読めなくなっちゃったよぉ……。

 

いままでこんなこと一度もなかったのにぃ……。

 

毎日毎日、読み続けてきたのにぃ……。

 

手が動かないよぉ……。

 

文字があたまにはいらないよぉ……。

 

眼とあたまがヘンになっちゃったのかなぁ……。

 

とりあえず、愛のとなりに座って、しばらく様子を見る。

 

それで、どういうことばをかけてやるか。

 

考えろ、おれ。

戸部アツマ。 

 

……ヘンになってるこたぁねえだろ。

 

 おまえはがんばってる。

 

 いろんなこと、がんばってる。

 

 ひとと比較してどうこうじゃなく。

 

 いっぱい、ひとを助けたり、ひとのためになったり、ひとを楽しませたり

 

楽しませてる……?

 

 わたしが!?

 

ああ。

 

この前、おまえは、『アツマくんは、いるだけでひとを幸せにする』って言ってくれた。

 

でも、おまえだってそうだよ

 

嘘!!

 

わたしは『ひとりずもう』とってるだけ

 

……あのな。

 

おれ、現代文の偏差値、少し上がったんだ。

英語も上がったんだぜ。

 

おまえがいなかったら、どっこの大学も受からないレベルの状態で、浪人を積み重ねてたかもわからん

 

……それと『わたしがひとを楽しませてる』っていうのの、どこが関係あるの

 

やべっ。

 

・・・・・・・・・・たすけてよ

たすけて

 

涙声で、アツマをみつめて、叫ぶ愛。

 

たすけて!!!!!!!

 

たすけて、アツマくん!!!!!!!!

 

わたし、そんなに強くない!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

「……(我に帰って)アツマくん?」

 

ーー気づくと、愛は、アツマに、右腕を、やさしく、でも、しっかりと、力強く、抱きとめられていた。

 

・・・・・・はい

気が済むまで、こうしてていいぞ

・・・・・・気が済むまでって、どういう意味(;´д)

・・・・・・言い方悪かったな(-_-;)

 

おまえ調子最悪みたいだから、ちょっとだけおれによりかかってろ

・・・・・・どういう理屈(;´Д)

 

 

・・・・・・でも、

『ちょっとだけ』じゃなくて、

『しばらく』、倚りかかってていい? アツマくん……

何分でも何時間でもどうぞ

 

無言で愛はアツマに倚りかかった。

アツマに、じぶんのからだをもたせかけるように。

…………ぐすん

泣くなよw

…………アツマくんのうで、あったかい

よーしよーし