【愛の◯◯】「アイねーちゃん」と「アツマおにーちゃん」

夕方

児童文化センター

 

夏休みだから、というわけではないが、すっかり「常連」となった児童文化センターで、きょうは図書室の本棚整理のお手伝いをしている。 

 

「(^_^;)羽田さん…よく疲れないわね。

 2時間近く、ぶっ通しで作業してて」

「本を取り扱うのには自信があるんですw」

「(^_^;)そういうことじゃなくって……体力がすごいわね」

「身体を動かすのが好きなだけですよw」

 

『ねえ、アイねーちゃん、あっちきてあそぼーよ』

 

「ちょっと待って、ここの本棚を整頓したらーー」

「いいわよ羽田さんw 子どもと遊んであげなさいよ」

「わ、わかりました…」

 

(-_-;)中途半端に作業を終わらせるのは、好きじゃないんだけどな。

 

(^_^;)ま、いいか。 

 

男の子とオセロをした

 

「orzまた負けた……!」

「アイねーちゃんどんだけ弱いんだよ。これで8連敗だよ」

 

「ふ、ふんっ、わたしはあんたよりずーーっとオセロ強い人知ってるんだからね」

「(色めき立ち)えっ!! どんなひと? おしえてくれよ!!

 

やべっ。 

 

「そ、それはその……わたしの……そのその、その」

「アイねーちゃん、『その』言いすぎだよ」

「(-_-;)ウウッ」

かれしなんだろ? ひょっとして」

 

 

 

どうして、どうしてわかったの、ねえ?!

 

 

「(;´Д`)で、でっかいこえださないでよ、びっくりするじゃんか」

 

「……」

「……」

 

「アツマくん、っていうおにいさんでね、じっ、じつは、きょうここにわたしを迎えに来る予定なの」

「なんだ、どっちにしろ、バレバレになるんじゃん」

 

あちゃあ…。 

 

「けっきょくアイねーちゃんのかれしなんじゃん」

「つ、つぎにわたしがオセロで勝ったら、これ以上追及しない。いいね?」

ついきゅー、って、なに?

「(-_-;)うっ。」

 

取り乱してるーっ。 

 

 

 

× × ×

そろそろアツマくんが迎えに来る時間になる。

心臓がバクバク高鳴ってきた。 

 

『ウィーン』(自動ドアの音)

 

!!!!!! 

 

 

「(笑い顔で)大人気だな、愛ww」

「い、い、いいでしょ、大人気なんだよ、わたし」

 

『おにいちゃん、だれ?』

『やだなー、きっとアイねーちゃんのこいびとだよ!!』

『かれしだ、か・れ・し!!』

 

「……ナマイキざかりで、いいじゃないかw」

「orz」

 

 × × ×

 

そのあと、しばらく『アツマおにーちゃん』は、子どもたちとオセロや五目並べをして楽しんでいた。

かなり馴染んでいた。

 

帰り道

 

「ねえ、これからも、ここのセンターまで、遊びに来たり……する?!」

「するかもな」

わたし、ちょっと…はずかしいかも

「なぜに?w」

「ば、晩ごはんの食材買って帰るためにこっち来たんでしょ!?

 はやく寄って帰りましょうよ!?」

「おれはたのしかったぞー」

「(トートバッグで)( ‘д‘;⊂彡☆))Д´) パーン

 

ルミナさんが……、

きょう、ここにいなくてよかった。

ほんとうに。

 

 

【愛の◯◯】仲直りアイテムは「コンパス時刻表 8月号」

葉山家

 

AM11:00

 

ヽ(`Д´)ノ あーっもう💢

 なんかい同じところの問題間違えるのよ!!

 

「……( ;゚д゚)むつみちゃん!?」

 

「(・_・;)……ご、ごめん、

 わたし、イライラしてた。」

 

(困惑したキョウくんをよそに、ベッドに転がり込む)

 

やっちゃった。

キョウくんにキレちゃった。

やばい。

やばすぎ。

 

暑すぎて、気だるくて、

家庭教師やりながら、イライラが募っていってた。

 

× × ×

 

家庭教師役を放棄して、ベッドで不貞寝(ふてね)してた。

時計の鐘が、正午を告げたーー。

最低。

 

PM0:30

 

『むつみちゃん』

 

『むつみちゃん!』

 

『むつみちゃん、ごはんだよ!』

 

「(むくり、と起きて)えっ」

冷やし中華、買ってきたよ」

 

わたしが何もしようとしないせいで、キョウくんに、 わざわざコンビニまで冷やし中華を買いに行かせてしまった。

こんな暑い中を。

 

なんて最低なの、わたし。

最低最低。

 

「ごめんね、おれ、デキが悪くて」

「……」

 

× × ×

 

PM1:30

 

休憩という名目で、勉強教えるのサボって、ア◯ック25の高校生大会を食い入るように観ている。

 

最低最低最低。

 

× × ×

 

…勉強を教えるのには復帰できたが、なんだかキョウくんに「ごめん」では済まされないようなことをしてしまった気がして、陰鬱な気分だった。

どうすればいいの……。 

 

× × ×

 

PM3:50

 

「(休憩という名目で、フジテレビを観ながら)白毛馬が勝ったーー、

 って、そうじゃなくってっ!!

 (パンパン、と両頬を叩く)」

 

キョウくんにどんなお詫びすればいいだろう。

 

彼は部屋で勉強してる。

 

キョウくんに隠れて、リビングで八木八重子にこっそりLINEメッセージを送る。

 

 

好きなひとにひどいことを言ったり、悪いことをしてしまったとき、八重子ならどうやって仲直りしますか。』 

 ・・・・・・

うーん、

 そのひとの「好きなこと」に関わることを、する?

 

 

えっ…。

八重子、なにその返信w

 

 

 

でも……、

キョウくんの、好きなことといえば……、

好きなことといえば……。 

 

 

 

 

 

PM5:15

玄関

 

「ただいま」

 

「むつみちゃん!?

 どこまで行ってたの!?

 そんな汗だくになって、おれ心配してたんだよ、」

「心配させてごめんね。

 汗だくになったのは、外が暑いから。

 

 ーーキョウくんに『買ってきたもの』があるんだけど、とりあえずシャワー、浴びるね…」

 

 

 

× × ×

わたしのへや

 

コンパス時刻表 2019年8月号

 

「はい、キョウくんにプレゼント。これ、あげる」

「買ってきたものって、時刻表!?

 なんでまた…!

 それに、悪いよ、代金払うよ、おれ」

それはツケといて

ええっ

 

「……」

「……」

 

「……代金もらうほうが、『ツケといて』なんて言うのもヘンだよね、でもーー、

 突然頭ごなしに怒って、冷やし中華まで買いに行かせて、家庭教師放棄して、きょうはキョウくんに対して悪いことばっかりしてたから、だからお詫びにっ」

ーーありがとう。

 むつみちゃん、顔、上げてよ

「はい。」

ハンカチーーいる?w

きょ、キョウくんだって、かおあかいじゃないのっ、わたしなきむしじゃないから、キョウくんのまえではぜんぜんないてなかったんだからっ

ーーいるんだね、ハンカチww

 

【愛の◯◯】或る名馬の死

ディープインパクトが死んじまった。

 

もっとも、おれは2001年度生まれだから、ディープの現役時代を記憶していない。

 

同じ三冠馬だと、オルフェーヴルのレースはリアルタイムで観てるんだけどな。

 

おれが競馬に目覚めるころ、YouTubeなんかでディープのレース映像が大量にうpされていたけれど、リアルタイムでのディープ体験がないもんだから、ただただ「強い馬」という印象でしかなかった。

 

ディープインパクトで競馬を知った世代が、エルコンドルパサーサイレンススズカナリタブライアンを「強い馬」としてしか認識していないようなものなのかも、しれないな。

(たとえば、サイレンススズカ金鯱賞毎日王冠を後追いで見ても、リアルタイムで観た「衝撃」を分かち合えない。

 おれたちの世代にとっての、ディープの若駒ステークスみたいなもので……あの若駒ステークスは、単なるレースアーカイブというだけの認識だから、リアルタイムで観た「衝撃」を分かち合えない…のか?) 

 

「ソースケなに考え事してんの」

「マオか。部活は?」

「軽く切り上げたの。これだけ、暑いとね」

「マオ」

「なに?」

近いぞ

!! (飛び退く)

 わ、悪かったわね! 別に意識して接近したわけじゃないんだからね!!

 

× × ×

 

ディープインパクトって馬が死んじゃったそうじゃない」

「あぁ、可哀想に…」

「ねえなんで馬券買えないのに、そんな競馬にご執心なの?」

競馬の半分はスポーツでできてるから

「( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン」

 

「……でも、競馬なんかあんま興味なさそうなウチのお父さんが、スポーツ新聞の記事を、神妙な面持ちで見てたよ」

「それだけ偉大な馬だったんだよ。『競馬』って枠を超えてーー」

「そうなんだろうね、きっと」

 

 

 

【愛の◯◯】こねくり回せば結構出てくる夏休みの予定

今週のお題「夏休み」

 

はい! 羽田愛です。すっごく暑いですね!! 熱中症にヤラれないようにしないといけませんね!!

 

さてさてさて、当たり前だけど、 学校は夏休み。

夏休みといえば、宿題。

去年は、現代文の課題を適当にしてしまったせいで、伊吹先生に叱られてしまうなど色々なことがあった。

その反省から、今年は宿題を早めに取り掛かるようにしている。

ペースは順調。

 

だけど……、

学生の本分は勉強なんだろうけど、

なんだか味気ない。

食い足りない。

 

アツマくんは、大学の夏休みを利用して、喫茶店でバイトを始めた。

忙しそうだけど、充実しているみたい。

ホールスタッフという業務が、性に合ってるんだろう。

体力自慢だもんね…w

 

でも、こっちは、大学生みたいにはいかないわけで。

日々を充実させたい、という「欲」ばかりが、先走るーー。 

 

「ところで、そもそも、アツマくん、バイトでお金稼いで、なにがしたいんだろう?

 なにか最終目的でもあるのかしら?

 どう思う? あすかちゃん。」

 

「さあ、どうでしょうねぇ。

 根が真面目だから、趣味にかけるお金ぐらいは、自分で稼ぎたいんじゃあないかなぁ」

「アツマくん、趣味にそんなにお金使ってる?w」

「確かにwww」

 

「じゃなかったら、おねーさんになにかしてあげたいのかもしれませんね、兄は」

どうして?!

「おねーさん、さいきん、つらそうにしてたことが多かったじゃないですか」

「そ、そうだっけw」

「テストで90点しか取れなくて、ひさびさにお母さんといっしょのベッドで寝たり」

「う」

「読書がうまくできなくなって、兄の胸に泣きついたり」

ど、どうしてそれ知ってるのよ?!

 

「ま、まあ、調子に波があって、いまは、下のほうからじょじょに上がってきてる状態なのかもね」

「ーー気晴らしに、おねーさんを旅行に連れて行きたかったり、とか」

「旅行って……わたしと、アツマくんが?」

「おねーさんと兄が。

 マズい点でもあるでしょうか」

「だ、大学生と高校生の男女がふたりきりで、ってのは、今の御時世ーーほら、ベイスターズの綾部くんがやらかしちゃったでしょう」

「兄はヘンなことしないですよ」

「そ、それでも、保護者役みたいなひとが、必要じゃないかなっ!?」

「まぁ、まだ、旅行に行くと決まったわけじゃないですから」

「(-_-;)」

 

「あすかちゃんはあすかちゃんで夏休み、忙しそうね」

「はい、部活で」

「どうしよっかな、わたし。

 文芸部は夏、お休みだし。

 勉強以外、予定がないってのも。

 まぁアカちゃんやさやかには会うんだけどさ。

 センパイたちとも会うだろうし。

 児童文化センターにも行きたいし。

 プールで泳いで暑さを忘れるのもいいかな。

 

 あ、あれ? 勉強以外の予定、けっこうあるかも?

「おねーさん、自己解決しちゃったw」

「(^_^;)」

「肝心な予定が抜けてる気もするけど」

「え、なに」

お兄ちゃんとのデートですよ!w」

Σ(^_^;)

 

【愛の◯◯】戸部くんのバイト姿にやる気をもらう(【告知もあるよ】)

わたし八木八重子。

浪人生で、夏休みをいけにえに捧げている、のだけども、

葉山からおもしろい情報を聞きつけ、

葉山家の近くにある喫茶店リュクサンブール』 に立ち寄ってみることにした。

 

たまにはいいよね。

情報が、おもしろいんだもん…w

 

カランカラン

 

「いらっしゃいませ。

 

 ーーΣ( ;゚д゚)ギョッ!!

 

「ハロー戸部くんwww」

な、ないすとぅみーちゅー

「おもしろいwww」

 

おもしろいwww 

 

「すごいね! ウェイターの制服姿、サマになってんじゃんwwww」

「……お水とおしぼり、どうぞ」

「(´・∀・`)来たんでしょ? さっそく、きのう、葉山が」

 

「(若干震え声で)こちらメニューになります……」

 

 

 

 

× × ×

 

「息抜きか?」

「たまにはね」

「おれを面白がって来てんじゃないだろうな、おれは見世物じゃないぞ、◯◯大学の戸部アツマだ」

「その◯◯には、なにが入るの?」

 

「ーー上司が寛容なお方なので、少ししゃべってきたら? と言われた」

「いい職場だねえ」

「あんたはバイトしたことなかろうが」

「(~_~;)」

「わ、悪かった、心臓に釘を刺すようなこと言って!!」

 

「羽田さんからメールきた」

「なぜ愛からこのタイミングで…」

「【告知】があるんだって」

「告知!?」

「『このブログ、名前が少し変わるそうです』だって」

(# ゚Д゚)管理人の宣伝じゃねーか!

 愛をブログ名変更の告知に使うな!!

 

 

「……茶番は終わりだ、八木さん、おれは業務に戻るよ」

「ねえ、戸部くん……」

「なに?!」

「『八木』って呼び捨てにしてよ。

 八木『さん』じゃなくってさ」

「どうして?!」

「葉山だって呼び捨てにしてるでしょ?」

「(;-_-)たしかに、理屈は通ってる……」

 

「(;^_^)わかった。

 受験勉強がんばれよ、八木!

 

 

ーーちょっと、かっこよかったかも。

 

戸部くんの働いてる姿が、キラキラして見える。

わたしも、がんばらなきゃ。 

 

 

 

【愛の◯◯】バイト初日のアツマくんをタオルで「ふぁさっ。」と激励

戸部邸

「アツマくん、お出かけ?」

 

「今日からバイトなんだよ」

「あー、葉山先輩ご紹介の」

「カフェのホールスタッフ…」

「立ちっぱなしだね」

「それはまあ体力的には問題ないんだけど」

「葉山先輩がお店に来て、アツマくんの制服姿見たら、なんて反応するのかしらねw」

「(~_~;) ーーある程度は覚悟してる。」

 

「葉山先輩だけじゃないかもよ。葉山先輩の伝手(つて)で、八木センパイとか小泉センパイとか」

「ああ、そういう横のつながりもあったな…」

「わたしも来ようかな?」

「他人のふりしてやる」

「えー!! ひっどいww」

 

× × ×

 

「じゃあ行ってくるから」

 

「ちょっと待って! アツマくん」

 

ふぁさっ。

 

愛が、

バイトに行こうとするおれの首に、

タオルを、ふぁさっ。 と掛けてくれた。 

 

「…これは何? 愛」

「なにって、タオルに決まってるでしょ。

 これからずーーーーーっと暑くなるんだから」

「ハハ…ありがたく、受け取っておくよ」

 

 

 

「じゃ、時間に遅れるといけないから」

うん、がんばってね、アツマくん!!

【愛の◯◯】吉野弘の漢字遊び

「幸(さいわ)いの中の人知れぬ辛(つら)さ

 そして時に

 辛さを忘れてもいる幸い。

 何が満たされて幸いになり

 何が足らなくて辛いのか。*1

 

「めずらしいな。

 あすかが、詩を朗読してるなんて」

 

「お兄ちゃん」

 

「だれの詩?」

吉野弘さんっていう詩人だよ。知らないの!?」

「……」

「あのね、『漢字喜遊曲』っていう詩を、読んでたの」

 

 

吉野弘詩集 (ハルキ文庫)

吉野弘詩集 (ハルキ文庫)

 

 

吉野弘詩集 (ハルキ文庫)

 

「(本を手にとって)…『漢字遊び』?」

「そう。面白いんだよ。

 漢字のかたちや部分から、いろいろ着想を得て。」

 

  

 

忌(い)むべきものの第一は

己が己がと言う心

 

 ※「同類ほか」より*2

 

「(本のページを眺めながら)ふうん。『忌』っていう漢字を、『己』と『心』に分けてるわけだな。」

 「そうそう」

 

幸(さいわ)いの中の人知れぬ辛(つら)さ

そして時に

辛さを忘れてもいる幸い。

何が満たされて幸いになり

何が足らなくて辛いのか。

 

「わたしが読んでた詩について言うなら、ほら、幸せの『』っていう漢字の中に、辛いの『』っていう漢字が、入っているでしょ?」

「たしかに、妙に、幸せの『幸』と辛いの『辛』って文字が似てるなあ、って思ったことあるかもな。

 反対の意味なのにな」

「そこを、吉野弘さんは、興味深いって思ったんじゃないの?」

 

 

 

何が満たされて幸いになり

 何が足らなくて辛いのか。」

 

「よっぽど気に入ったんだな、もう一度声に出して読みやがってw」

「(ー_ー;)いいじゃん、べつに!」

「…でも、なんか、深いよな」

(ノ≧∀)ノ ね? わかるでしょ、お兄ちゃんも!

 

× × ×

 

そのまましばらく、兄のとなりで、『吉野弘詩集』を上機嫌に読んでいた、わたしだったのだがーー。

 

「…あすか。」

「なにお兄ちゃん」

「おまえ…、

 いつもより、距離が近くないか?

 

ーーきょ、きょりがちかい、って、どういういみ?

 

「いや……、

 いつもより、おれの近くで、本、読んでるなーって(ポリポリ)」

 

!!!

(ソファーの端に素早く移動するわたし)

 

「(^_^;)いや、逃げなくてもいいだろ~」

 

× × ×

 

お兄ちゃんとの距離感が、

つかめなくなったのか、

それとも、距離が縮まったのかーー。

 

たぶん、

わたしのほうから、

お兄ちゃんに、歩み寄るようになった、

(~_~;)そういうことに、しておこう。

 

*1:吉野弘詩集(ハルキ文庫)161ページより

*2:同上、175ページ

【愛の◯◯】お兄ちゃん……

『お兄さんはスーパースターだったんだよ』

『もっと尊敬したほうがいいよ』 

 

ーーなんでみんな、兄への評価が、そんなに高いんだろう。 

 

戸部邸

リビング

 

ソファーに足を投げ出して、寝っ転がっている兄。

冴えない大学生にしか見えない。 

 

「……そんなにだらしなくていいの、お兄ちゃん?

 カフェでバイトすることになったんでしょ?」

 

「…ま、あすかの言う通り、かな」

「じゃ、じゃあ、もっとちゃんとしてよ!!」

 

「そんなカタいこと言わずにさあ。

 こっち来て、おれといっしょにテレビでも見ようよ」

 

(>_<;)お兄ちゃん、キライ!!

 

 

× × ×

 

おねーさんの部屋

 

「兄にキレてしまいました」

「毎度のことじゃないw」

 

「あの、疑問なんですけど、

 なんでみんな、兄のこと、あんなに好きなんでしょうか…?」

「あすかちゃんは、アツマくん、キライなの?」

 

わたしは首を振った。 

 

「素直に……なれない、です」

「きょうだい、だからなのかな」

「そうかも…」

 

「話していいか、わかんないんだけど、」

「?」

「アツマくんね……わたしに、こう言ったことがあるんだ。

 

おれは、あすかを、不幸にさせたくない

 

 って。

 本気で? ってわたしが訊いたら、『本気で、不幸にさせたくない』って。

 

 それから、わたしが利比古を可愛がってるように、アツマくんも、あすかちゃんのことが、『かわいい』んだってw」

 

 

 

 

「……どした、あすかちゃん? 放心状態みたいになって」

「ふ、『不幸にさせたくない』なんて、カッコつけて、具体的じゃなくって、

 でも、でもーーお兄ちゃん、わたしが考えてたより、ずっとわたしのこと、気にしてくれてた、気にかけてくれてた」

…妹のことが大切じゃない兄なんて、いないんじゃない?

 

 

 

 

ふたたび、リビング

 

「ようあすか、花火でもしないか?」

「する」

「じゃあ愛も呼ぼうぜ」

「ねえ…

 たまには、ふたりでやらない?」

「え」

「おねーさん、怒らないから、絶対」

 

× × ×

 

縁側で、線香花火

 

「ーーなんかあったのか」

「さっき、『キライ』って言っちゃったこと、気にしてない?」

「あー、いつものことだろ」

「ほんとはキライじゃないから」

「…わかってるって」

 

「お兄ちゃん」

「なに」

…わたし、おにーちゃんのこと、おーえんしてるからね

 

「応援って、何をだよw」

わかんないっ

 

なんだか、胸がじーんと熱くなって、

お兄ちゃんの肩に、寄りかかりそうになって、

甘えたいって、こういうことなんだろうか、

こういう、こういうーー、 

 

素直になりたくて、

お兄ちゃんの顔を、じっと見つめた。 

 

「……なんだなんだ? のぼせやがって」

「のぼせてないもんっ!

 

 あのね、お兄ちゃんの顔を見る練習。

 わたし、イマイチお兄ちゃんの顔を見て話せてなかったような気がするから」

 

「…そんなことねーよ」

あるよっ!!

 

「…花火、終わっちゃったな」

「いいじゃん、もうちょっと、ここでしゃべろうよ。

 あのね、きょう、ベイスターズが中日相手に12点取ってて、松坂をメッタ打ちにしてて、それでおねーさん、爆笑しながら中継観てて…」