【愛の〇〇】『好きな人がいるから』

横浜が阪神に大逆転された

わたし「……なによ、この試合。

 ソトを指名打者にしてよ😠」

アツマくん「無茶言うなw」

わたし「悔しくないの!?」

アツマくん「おれは中立だし。

 素直にサイクルヒット達成した梅野を賞賛するよ😃」

 

わたし「む〜〜〜」

アツマくん「な、なんだ愛、暑いじゃないか、そんなによっかかってきて」

わたし「上茶谷が……かわいそう」

アツマくん「(;´Д`)だから、近いって、愛。

 胸が当たる……ことはないか、

 あすかと違って」

わたし「(アツマくんをギューッとつねって)一言多い!

 

( º言º)あーもう梅野のヒロインの演説ムカつく💢」

 

感がいいアツマくん「……なにか学校であったのか?」

わたし「わかる?」

アツマくん「だってソトが落球したとき、尋常じゃないキレっぷりだったし」

 

わたし「(ーー;)今日の朝ね。

 下駄箱あけたら、手紙が入っていて………!!」

アツマくん「うひょ! 後輩の女の子からラブレターもらったんだな!」

わたし「お・ん・な・の・こ、ってのが問題じゃないの。さやかはそういう経験あったみたいだけど、わたしは今まで1度もなかったから、ビックリした」

アツマくん「それでどう処理したんだ」

 

わたし「放課後、体育館裏で――」

アツマくん「wwwwwwwww」

わたし「ヽ(`Д´)ノ大爆笑するなっ!」

 

わたし「体育館裏で、断った」

アツマくん「なんて言って断ったの?」

わたし「決まってるでしょっ!

 

『わたし、好きな人がいるの』

 

 って言って」

 

好きな人「( ・ᴗ・  )……そっかそっか」

 

わたし「( ˶'-'˶)

 

思わず、

『好きな人』の背中に抱きつきたくなったけど、

自重して、さりげなく、

彼の右手を握りしめた。

 

 

 

 

【愛の〇〇】肩もみ大臣アツマ

アツマくん「あのさ…」

わたし「なに?」

アツマくん「やっぱさ、さっきも言ったけど、おまえ…肩、凝ってるだろ」

わたし「歯切れが悪い。アツマらしくないぞっ」

アツマくん「呼び捨てすんなっ!!」

 

アツマくん「お前の肩が揉みたい」

 

わたし「ちょちょちょ、ちょーーっと直球すぎない!?」

アツマくん「たしかに。

 でも、ほかの言い方が思いつかなかった。

 ごめん」

 

わたし「………ほぐしてくれると、うれしい。」

アツマくん「いいのか?」

わたし「特別よ。」

アツマくん「そりゃどういう意味だ…」

わたし「ひみつ」

 

アツマくん「強すぎたり、痛かったら言えよ。

 

……どうだ。」

 

わたし「うん、きもちい……いや、なんでもない、ちょうどいい」

アツマくん「気持ちよかったのか。それはよかった」

わたし「(>_<;)ばーか」

 

アツマくん、

肩揉むの……上手。

 

はやく、わたしのほうから、頼めばよかった。

 

「はやく、わたしのほうから頼めばよかった」

「えーのえーの」

「(゚o゚;;ギク! ――声に出してた、わたし!?」

「えーのえーの」

 

「気にすんな、いちいち細かいこと。

また肩が凝るだろ?」

「うん、アツマくんの、言う通りだね」

 

「アツマくん……

大学、がんばってね」

「あたぼうよ」

「(-_-;)今どき誰も使わないような決め台詞を…」

「なんだとぉー」

「Σ(゚д゚;)わわわわかったわかった! もとのつよさでおねがいしますあつまさまぁー」

 

 

 

【愛の◯◯】アツマくんの背中

コーヒー飲んで、ソファに寝転んでる。

いまいち本を読む気もしない。

スマホいじってる。

 

ーーわたしらしくない。 

 

あすかちゃん「おねーえさーん♪」

わたし「元気だねあすかちゃん。いいことだよ」

あすかちゃん「きょうは本読まないんですね」

わたし「気がすすまないのよ」

あすかちゃん「どうしてですか?」

わたし「ーーーーー」

 

あすかちゃん「(ため息をつき)もう、2年半もいっしょに暮らしてたら、なにがあったか、わかっちゃいますよ」

 

えっ。 

 

あすかちゃん「愚兄とギクシャクしてるんでしょ?」

 

わたし「どうしてわかるの……」

 

あすかちゃん「だって、朝ごはんのとき、おねえさん、愚兄の顔をいちども見てなかったもん」

 

わたし「どうしてわかるの……」

あすかちゃん「丸わかりです」

 

× × ×

あすかちゃん「お互いに謝りはしたけど、わだかまりがなくならない、ってことですか。」

わたし「それでなんかモヤモヤしてるんだと思う」

あすかちゃん「ん~~」

 

あすかちゃん「結論から言うと、わだかまりはすぐにはなくならない、と思っといたほうがいいです」

 

なんか辛口意見。 

 

わたし「理由は?」

あすかちゃん「んー、理屈じゃなくて、こういう場合、一瞬でパーッ!! と打ち解けるほうが、不自然じゃないですか?」

わたし「すぐに元通りになるほうが気持ち悪い、ってこと?」

あすかちゃん「まあそんなところですね」

 

あすかちゃん「つまりおねえさんは、さみしいんですね」

 

ギクッ 

 

あすかちゃん「お兄ちゃんの大学都心のド真ん中だし、流さんみたいに、夜遅くまで帰らないときだってある」

わたし「うん、よくわかってるあすかちゃん、わたしの心理。

 さみしいのは、ワガママ、というか、甘えごころの裏返し、みたいなものかな」

あすかちゃん「甘えごころ?」

 

わたし「わたしね……アツマくんの背中に、自分のおとうさんの背中を重ねちゃうの。

 ずーっと昔の記憶だけど、おとうさんの背中におんぶされるのが、わたし大好きで……。

 おとうさんの背中に身を委ねていると、すごく幸せな気分になってーーうまく言えないけど、おとうさんの背中の感触を覚えているというかーー恥ずかしいんだけど、おとうさんにおぶわれている夢を、今でも観るの。」

 

あすかちゃん「で、お兄ちゃんの背中にも、おんぶされたいんですか?」

わたし「…………ときどき、アツマくんの背中に、ギュッと抱きつきたいことがある。

 これ、アツマくんには秘密…」

あすかちゃん「わかってますよ」

 

わたし「あいまいだけど、甘えたいときもあるし、甘えたくない気持ちもある。

 そんなに強くもないし弱くもないんだよ、わたし。

 わたし自分のこと、半分好きで、半分きらい」

 

あすかちゃん「『ドラクエ』じゃないですけど、いい呪文があります」

わたし「呪文??」

 

あすかちゃん「時間が解決してくれますよ。」

 

わたし「(・_・;)時間、が…」

 

なぜだか、その『呪文』を聞いて、

あすかちゃんが、わたしに、

『前向きになりなさい』 と、

叱咤激励してくれているような気がした。

 

 

【愛の◯◯】愛に教えられるばっかじゃ、だめだから

 

Group Therapy 300 Live from Hong Kong - Andrew Bayer

Group Therapy 300 Live from Hong Kong - Andrew Bayer

 

 

・アツマはきょうも音楽サークル「MINT JAMS」の新歓ブースをのぞいていた

アツマ「ライブで聴いてる人も気持ちよさそうだろうなあ。踊り通すには、そうとう体力が必要そうだけどw

 なんていうんですっけ、こういうDJ的な、ハウス、というか、トランス、というかーー」

ギン「EDMって最近よく目にしない?」

アツマ「あ、見たことあるかも」

ギン「EDMってね、単に『エレクトロ・ダンス・ミュージックElectronic Dance Music』の頭文字を合わせただけなんだよw」

アツマ「あ、たしかに」

ギン「ハウスやトランスは、EDMのジャンルだね。でもめんどくさいから、とりあえずそれっぽいのはEDMって言ってしまえばいいと思うよ」

アツマ「そんなガバガバでいいんすかねww」

 

ほんとうにいい加減ね

 

アツマ「あ、ギンさんの幼なじみのーー」

ルミナ「(赤面)

アツマ(あ、あれ? 幼なじみって言っちゃあ駄目だったんだろうか)

 

ルミナ「音が大きいから絞ってもらいたいんだけど💢」

ギン「えーっ」

ルミナ「だいたいなに!? さっきの説明、ウィキペディアの丸パクリみたいじゃない」

ギン「実際そうだけど」

ルミナ「もっと怒るよ!?

ギン「だってEDM勉強しだしたの最近だし」

アツマ(EDMみたいな音楽も「勉強」するものなんだ…すごいな)

 

ルミナ「(PC画面を覗き込んで)Spotify再生して大音量で流してるだけじゃん…あきれた」

ギン「ちょっルミナ近い」

ルミナ「!!(その場から飛び退く)」

 

 

ルミナ「ね、ね、ね、ねえ、新入生くん、あたしのサークルも、みみみ見ていかない?

アツマ「(^_^;)その前に、深呼吸しませんか?」

 

× × ×

ルミナ「児童文学のサークルなの。歴史は比較的新しいんだけど」

アツマ「(『虹北学園』と書いてあるポスターを見て)にじきたがくえん??」

ルミナ「ああ、それは、『こうほくがくえん』って読むの」

 

アツマ「なにか由来があるんですか?」

ルミナ「( ^_^)ふふw じぶんで調べてみて」

 

 

 

~帰宅後~

 

愛「児童文学のほうも面白そうね」

アツマ「おまえは大学生じゃないだろ」

愛「(-_-;)くっ……」

 

アツマ「おれ大学のことはぜんぶ自分で決める」

愛「大丈夫なの?」

アツマ「だっておまえ大学生になったことないだろ?

愛「(・_・;)……」

アツマ「おまえはおまえのことをやれ

愛「( - _ - ; )……」

 

アツマ((;´Д`)や、やべ、気まずい? 正論を言ったつもりが……)

 

・愛は黙って自室に戻っていき、本をたずさえてアツマのところに戻ってきた。

 

 

亡霊は夜歩く 名探偵夢水清志郎事件ノート (講談社青い鳥文庫)

亡霊は夜歩く 名探偵夢水清志郎事件ノート (講談社青い鳥文庫)

 

 

愛「これを読めば『虹北学園』っていうサークル名がなんのことを指してるかわかるわ」

アツマ「まじか。(ペラペラ)

 ーーあ、そういうことかぁ!

愛「授業が始まるまでに読んで」

アツマ「大学では『授業』じゃなくて『講義』って言うんだよ~ん」

愛「(・_・;)

 

愛「(Д`;)ぞ、続巻の『踊る夜光怪人』も面白いから、もしよければ…」

 

アツマ「あのさ」

愛「うん…」

 

 

アツマ「どこまでおれが、自分で自分に厳しくできるか、わかんないけどーー、

 大学のことに関しては、ほんと、ケジメつけたいんよ」

愛「うん……」

アツマ「おととい……入学式の日、入学式終わったら、母さん、泣いてた」

愛「……」

アツマ「ほら、父さんのことだってあったから」

愛「うん……」

アツマ「大学のことは、おれが教えてやるよ。講義がどんなだとか、サークルがどんなだとか」

愛「うん……」

アツマ「おまえに教えられるばっかじゃ、いかんのよ」

愛「…………わかってる、わたし勉強する

 (ダッシュで自分の部屋に帰る)」

 

 

青い鳥文庫『亡霊は夜歩く』の表紙を見つめるアツマ。

 

あれでーーよかったのかな。

 

 

 

【愛の◯◯】カシオペアから遠く離れて

「晩ごはんいらないってことは、このタコ焼きもいらないわね」
「いい匂いだなあ」
「😡はいかいいえで答えなさい」

 

「(ぱくぱくぱく)」
「ーーあすかは?」
「んー、なんか知らないけど、部屋に引っ込んじゃった」
「タコ焼きに食いつかないのな。ダイエットかあ?」
「バカ! デリカシーなさすぎ」

 

「あれ、あすかちゃんからLINE来た。なになに、『お兄ちゃんのペットボトル間違えて飲んじゃった😫』」
「それぐらいで部屋に引っ込むのかよ!!」
「バカ!デリカシーなさすぎ」

 

「『あんま気にすんなよ』ほれ」
「なんだかんだで気配りはうまいよね」
「アフターケアな」
「(-_-;)」

 

「それで、どういう流れで音楽サークルの先輩とラーメン食べたのよ」
「それはな…」

 

(回想)

 

『科目登録ってややこしいんだなあ』

 

がやがやがや


『サークルのブースがいっぱい…
チャラいのは嫌だなー🤔』

 

× × ×

『ふーん、この建物でも新入生勧誘やってるのか。
 音楽が聴こえてくる。

 CD、流してるのか?』

 

ちょっと! もう少し音量絞ってよ💢』
『おーわりぃわりぃ』
真面目に聞いてる!? あたしの話、真面目に聞いてる!? ねえ
『聞いてないわけないだろー。何年同じ学校に通ってると思ってんだ』
『もうすぐ20年…一刻も早く社会に出たいったらありゃしない』
『そりゃどーも。
 でもーー、
 おまえがブラック企業で死んだ目になって働いてるのを見るのは嫌だなあ


(何も言い返せないのか)……

 

『なに固まってんの?』
『ギン、あんたどうしてそこまで音楽にこだわるの? 高校のとき、突然音楽ばっか聴くようになり出してーー、』
『悪い、お客さんだ』
ギン!!

 

× × ×

『悪い悪い、ルミナがしつこくってさ』
『ルミナさんって、いま出ていった女の人ですよね、音が大きいとか怒ってた…』
『ああ、幼稚園からの腐れ縁なんだ。この大学までエスカレーター式でさ』

 

『気に入ったかい?その看板イラスト』
『はい。ビンの色が気に入って』
『それはハッカのジャムなんだよ』
『へえぇ』
『もっとも、元あるアルバムジャケットをパクっただけなんだけどさ』
『ミント、ジャム、ス?』

 

 

MINT JAMS

MINT JAMS

 

 


『そう、MINT JAMS(ミント・ジャムス)カシオペアっていうバンドのアルバム名で、ウチのサークル名もそれが由来なんだけど、まあ同じ名前のサークルは全国津々浦々に存在するだろうね』
『そうなんですか……』

 

フュージョンって言ってね、すーーっごく雑に説明すると、ジャズとロックを合わせたような音楽』
『でもいま流れてるのって、明らかにラテン系の曲ですよねw』
『そ!w 月日を経ていつの間にかカシオペアから遠く離れて、総合音楽サークルみたいになってw といっても演奏しないけどね。ただひたすら聴くだけ』

 

『あ、鳴海さんだ』

 

『はじめまして新入生くん。ほー、きみ、ガタイいいね、なかなか。
 スポーツとかやってた?』
『ひと通り…』
『ひと通り! なーるほど! きみは水泳に興味ないか?
『鳴海さん! 音楽サークルのブースで唐突すぎるでしょ』
『えーと、おれ、プール行くのが日課で』
『(目を輝かせて)マジで!? ほら、座って音楽聴いてるだけだと不健康だしなんだか物足りないじゃん!? だからサークルの有志で近くのプールで泳いでそのあとで大学の勉強の情報交換したりするんだ、どうだい有意義だろう!!

 

 

「ーーで、そのあと、3人でプール行った
「(゜o゜; え!? 泳いだの、そのひと達と!?」
「ああ。水着貸してもらって。そのあとでラーメン食べた。
 美味しかったな~♪」

 

 

アツマくんが入ろうとしてる(?)サークル……、

謎! 

 

【愛の◯◯】ハル休みの出来事

ハルは自転車に乗っていた

 

「♪~(´ε` )」

 

!!

 

ドンガラガッシャーン

 

 

「( ;゚д゚)……大丈夫ですか!?」
「そちらこそ。と言うか、そちらの方が大丈夫ではないのでは?」
「あー、これくらいの傷だったらほっといても治りますよ」
「だめですよ消毒しなきゃ、わたし、家近いんで」
「えええ!?」
「わたしの家というよりも、住み込みで働いているんですが」
「お屋敷ですか!?」
「まあそういったところです、それに自転車も直さないと」
「確かに。でもーー」
「屋敷の主人が機械いじりが好きで、自転車を直すのも得意なんです」
「はぁ…」
「それにあなたがせっかく買った卵、割れちゃったじゃないですか」
「確かに」
「冷蔵庫に卵が腐るほどあるので」
「卵は腐ったらだめじゃないですか!」
「あははw」
「・・・(苦笑)」

 

ふたりは歩いた

メイドさんなのか・・・?


でも、普通の服だし。 

足、細いなあ。

 

 

× × ×

 

「(;´Д`)も、もしかしてここですか」
「はい」
アカ子さんの苗字だ…
「あれ、お知り合いなんですか?」
「いちおう」

 

 

 


「着替えてくるんで、少し待っててください」

 

・彼女はメイド服でやってきた

 

(めメイド服だあ。産まれて初めて見る)


「紅茶でよかったかしら?」
「なんでもいいです」

 

コポポポポ…

 

「前方不注意だったのはわたしのほうですから、おもてなしさせていただかなくてはと思いまして」
「ぼ、ぼくのほうが悪かったです」
そう言うと思いました〜w
はいぃ!?

 

「からかわないで下さい」
「熱いですよ」
うげっ!

 

 

ガチャ

 

蜜柑!
「あら。」
「(唖然呆然)」

 

「蜜柑、やたら騒がしいと思ったら…な、な、なに、なにハルくんで遊んでるの!?」
「行きあたりで、こう、バッタリと」
「は!?」

 

(事情を説明する蜜柑とハル)

 

・アカ子は黙ってものすご〜く大きいグランドピアノに向かう


「(ハルの傷の手当てをしながら)お嬢さまってつめた〜い!w
ね、ハルくん?
「いや、怒ってると思います…」
「(大きな音を出して)そうよ!! 男子高校生をもてあそんで…!
「いまごろご主人様が満面の笑顔で自転車を修理してると思いますわ」
「(不協和音を出し)蜜柑!!

「そういや、きみの苗字、自動車の会社と同じだねえ
「(ピアノをめちゃくちゃに弾きながら)そうよ!! にぶいわね
「もしかして」
「もしかしなくてもうちは自動車メーカーの経営者一族よ」

「ね!根っからお嬢さまなんです」
「(またも不協和音を出し)蜜柑! 怒るわよ
いやきみ明らかにもう激怒してるよ

 

× × ×

 

・メイドの蜜柑さんがハルをもてなしているあいだ、なぜかグランドピアノに居座りアカ子は演奏し続けるのだった。

 

アカ子さん
「なによ、蜜柑」


「え、いまお嬢さまって言わなかった」
「(小声)『ハヤテのごとく!』って漫画知らないですか」
「知らないです」
「(アカ子に聞こえるように)『ハヤテのごとく!』という漫画にはマリアさんというメイドさんが出てくるんですが、お嬢様のナギちゃんのことを呼び捨てにするんです。

 もちろんフォーマルでないところで、ですが」

 

 

ハヤテのごとく! 10 (少年サンデーコミックス)

ハヤテのごとく! 10 (少年サンデーコミックス)

 

 


「はあ…読んだことないから想像しかねますが」
蜜柑! 用件を早く言いなさい
「アカ子さん、あなた今朝、夕食はオムライスがいいって言ってましたよね?」
(突然ドガーン!!と鍵盤の蓋を閉めるアカ子)
「ひいっ!」
「だめでしょー、ピアノ壊れちゃいますよー、お父さんに怒られちゃうんだから。

 罰として夕食のメニューは変更です(去っていく)」

 

「どこ…行ったの」
「キッチンよ」
「その…蜜柑さん、とはどういう関係なの」
「見てのとおりよ」
「見てのとおりって」
「長い付き合いで、年齢も近くて、よそよそしいほうが変に見えるからって、家族の方針もあってーーそれであんなフランクな態度をとっても許されるの」
「ふーん」

 

(目を見開いて)ハルくん。」
「へ」
「バッグが破れてるじゃない」
「あー、ほんとだな」
「(近づいて)ちょっと見せて」
「え!?」
「縫ってあげる」
「えぇ!?」
「蜜柑のせいで破れたんだもの」
「縫うって、時間かかるんじゃ」
「あなた家庭科の授業受けてこなかったの!?(バッグを取る)」
「だめだよ悪いよ、おいとまするよ、もう(バッグを取り返そうとする)」
「さ、裁縫は愛ちゃんより得意なのよ、蜜柑はもっと得意だけどっ(バッグを譲らない)」
「卵もらったら帰るってば(バッグを引っ張ろうとする)」

ダメ! バッグに乱暴しないで! 引っ張るともっと破れちゃう(ついにハルからバッグを強奪し、バッグを抱き留める)」
いつからきみのバッグになったんだ
あっ…
「頭冷やそうか」
(ぽすっ、とハルのバッグを落とす)

 

× × ×

日曜大工のような出で立ちのアカ子の父さん「おぅい自転車直ったぞい」

 

蜜柑「はい、卵10個パック、おみやげもついてますよ〜」

 

 

・バッグをめぐりもつれあった末に、見つめ合い状態のふたり……

 

 

アカ子パパと蜜柑『どうしたの?

 

 

 

 

【愛の◯◯】美味しいスパゲッティの作り方(後編)

スパゲッティを食べたら眠くなってしまい、自分の部屋のベッドでうとうとしていた。

すると午後2時を過ぎていて、「これはいけない」と思い、起き上がって、冷蔵庫に入っていたペットボトルのアイスコーヒーをコップに入れて飲んだ。

 

ふと思い立ち、私は戸部君に電話をかけてみた。

なぜ戸部君にだったかと言うと、午前中アンに電話したので、アンの同級生だった戸部君のことを、「連想」のように想い起こしたから。

 


「もしもし戸部くん」
「いかにも。

珍しいな、葉山からかけてくるなんて」
「ごめん、良くなかったかしら」
「まさかあ」
「そう・・・」
「で、どんな用件」
「すごく、すごく変なこと、言うけどね、」
「なんだよw」
人生相談かな」

 

「アン…藤村さんのほうが、同じ学校だったから、よく戸部くんを理解してると思うんだけど」
「藤村のこと、アンて呼ぶんだなww」
「うん…。

それでね、戸部くんは、例えば、落ち込んでいる子を慰めたり励ましたりするのがとてもうまいと思うの。

とくに女の子」
「ウチの愛のこと言ってんのか?w」
「そうだけど、羽田さんだけじゃないでしょ。

もちろん想像よ。妹さんとかーーもしかしたら、アンにも」
「ふーむ」
「思い出さない、高校時代振り返って」
「ああ、 2年生のときだけど、藤村が失恋してさ。

ショックだったみたいでさ、あからさまにおかしかったから、声をかけてやったら、元に戻った。

そんなことがあったな」
「やっぱり。」
「まあ、妹に関しては……、兄弟だからなあ」
「これは男の子女の子とか関係ない話だけど、戸部くん、多分面倒見がいいのよ
「なるほどね。

で、葉山の人生相談はどこ行ったんだ?w」

 

「実は午前中に、アンと長電話しちゃったんだ」
「ほほお」
「で、アンが励ましてくれて。それはもちろん嬉しかった。

でもね、自分のできないこととできることの違いと言うか、弱みと強みと言うか、そういう話になって。

彼女は自分がいた部活に顔を出していたようだから、悪いと思って、『長電話になっちゃったね』ってこちらから電話を切ったんだけど、

それから私、私の強みーー得意、と言い換えてもいいわね? それってなんだろう、って考えてて」
藤村も罪作りなやつだなあ
「そんなことないって」
「いいや。葉山を今悩ませてる責任がある
「そこまで言うの」
「これは、藤村の人格が分かってるからなー、あえて」
すごいね…戸部君って
「すごくない」
すごい
「じゃあすごいんだろw」
ふふw

 

「で、戸部くん去年の秋のお料理対決覚えてるよね? 私、料理はできるから、自分でスパゲッティを作ってみたんだけど……どうも美味しくないの」
「そりゃ一人で食ったからだよ」
そう! そうなの!
「例えばさあ、一人でサイゼリヤで食うとわびしいだろ?」
戸部くん、一人でサイゼリヤ行くの!?
「一人で行ったことあるっけ、あ、葉山はそもそもサイゼリヤ行かないか」
「確かに行ったことはないわね。

でも、家ででなくて、例えば喫茶店ナポリタンを食べたら美味しかったと思うわ
「喫茶店ナポリタンなんて、あだち充の漫画の世界だよ
確かにww
わかる?w
わかるwww

 

 

タッチ 1 完全復刻版 (少年サンデーコミックス)
 

 


「意外と漫画の知識あるんだな」
人は見かけによらないって

「そうなあ、人が見かけによらないんだったら

「?」
「例えばさ」
「?」
「葉山、きみのお父さんが」
「おとうさんが?」
「えっと、きみの父さんは料理を作ったりするか?」
見たことない
「へーっ」
「考えてみれば、今時珍しいかもね」

 

「でも、でもだよ」
「でも?」
きみの父さんは、実はひょっとしたら昔、料理が得意だったかもしれない。

人ってもんは、意外性と二面性があるから
「確かに…。 

戸部くんにも意外性と二面性があるわ
「え、どゆことw」
羽田さんが教えてくれるよ。
「(きょとん、としているのか)・・・・・・」

 

 

ーーーーーーー



「おかえり、おとーさんっ」
「おー、ただいまぁ」

 

「今日は昼間、むつみ一人だったよな。

ご飯はどうした?」
「自分でスパゲッティ作って食べたわ」
「スパゲッティかあ」
でも一人だったからかしら…美味しくなかった
「それはよくないなあ」


よーし
「?」

今日はお父さんが晩御飯作ってあげよう

ちょちょっと!? 藪からヘビに何言うの!?
「それを言うなら藪からだろ? 

母さーん! 台所を使わせてくれー!

 

「(呆然)」

 

× × ×


「父さんなあ、西武新宿線の、各駅停車しか停まらん駅で、貧乏下宿生活してたんだ
「(きょとん)」
「自分でもよくわからんもん作ってたよ。…でも、なかなか家が仕送りをよこさんかったからな」
「(きょとん・・・)」
「一年のうち360日は自炊だった
本当に!?
嘘じゃないよ

 

「これ……昼間に私が作ったナポリタンにそっくり」
「簡単ですまんね」

 

お母さんは、うっとりするような目でテーブルを見つめてる。

 

 

 

美味しい。

一人とか3人とか、そういうのじゃなくて。

私が作ったのより美味しい!! どうして!?

それは、一年のうち360日毎食自炊だったからだと思うよ

 

・・・・・・う、ううッ
「ど、どうしたむつみ」
・・・ぐす・・・ぐす

 

お父さんは少し困惑して、

それでも、私の頭にそっと手を置いてくれる。

 

お父さんに料理で負けて悔しいの
嘘つけ。分かるゾ~むつみ
うん。

 嘘。」 

 

 

 

 

【愛の◯◯】美味しいスパゲッティの作り方(前編)

昨日は、羽田さんが、電話で話し相手になってくれた。

学校は多分春休み。

でも、そんなにしょっちゅう羽田さんに連絡したりして過剰に寄りかかるのは、お互いにとって良くないと思う。

「頼りにしてくれていい」と彼女のほうでは言ってくれているけれども、羽田さんには羽田さんの人生があるのだ。

 

月曜日の朝。

平日の朝だ。

八重子は、予備校に入る手続きを進めていることだろう。

八重子には、休んでいる暇がない。

いっぽう、私はーー(-_-;)

 

ーーーーー


「もしもし」
「アン? 今話しても大丈夫?」
「いいよ。でも少し待ってね、今通話してると危ないから」
「え、どういうこと」
「部活の面倒を見てるの」
「サッカー部だっけ」
「そうだよ。ボールが飛んできて、スマホが破壊されるといけないから」
「いやあんたの身の危険を考えなさいよ、そもそもあなた卒業生でしょ?」
「慕ってくれる後輩が多くてね」
「『偉大なるOG』ってわけ」
そうね!

 

 

「はい、話してもいいよ」
「ん・・・」
「どうしたの」
「ちょっと言葉が出てこなくなって」
「何それw」

 

「ごめんね、なんか私他人に依存してるみたい」
「はーちゃん、そういうこと言う人ってねぇ、大抵、『思い込み』なんだよ
「思い込み・・・」
はーちゃんは私の恩人なのよ
「・・・」
「はーちゃんが家庭教師してくれたおかげで、戸部よりも偏差値高い大学行けたんだから」
「それはありがとう」
「人ってのはさ、お互い迷惑をかけあうもんじゃないの」
「悟ってるみたいね…。

それに、私のほうが、あなたに一方的に迷惑かけてる。そんな気がする」
「それも『思い込み』じゃない?」
「あ」
わたしはあんたが思っているよりめんどくさいヤツだよ
そんなことないわ、アンのほうがまともだわ
いつか分かるよ
「そうかしら」

 

「あのね、わたし、何もすることがないの、街に出てもふらふらして、例えば――パチンコ屋にふらふら入っちゃったりしそう
「確かにw」
「ーーでもそれじゃだめでしょ」
「親御さんに迷惑かけたらねえ」
「うん・・・」
「前にさ。はーちゃんに、髪を直してもらったことがあったじゃない」
「それはあなたがあまりにもだらしなかったからーー」
むつみは真面目ちゃんなんだよ~!w
「あのねえ」

 

「まあ、わたしに限ったことじゃないけどさ、たいていの人間って、気張って生きてないし、案外だらしない。

だから、はーちゃんはむしろ立派なんだよ?
それは…、どうも

 

「でもわたし、そうは言ってくれるけれど、身の回りのことをするの、実は苦手なほうなのよ?」
「部屋が散らかる?」
うん・・・
じゃあその弱点は弱点として認めなさい」 
ーーアンも、立派だね
「そう?」

 

「ねえ、弱点の反対って何だろう
そりゃあ、自分の強みに決まってるでしょ!
「本当だ」
はーちゃんおかしいwww
うるさい。

 

 

ーーーーー

 

随分と長電話になってしまった。

まあいいや。

わたしの強みって何だろう。

一つは、料理?

 

家にあった食材で、スパゲッティを作ることにした。

お湯を沸騰させ、塩を入れてスパゲッティを茹でる。

その間に、野菜とソーセージを切る。

茹で上がったスパゲッティのお湯を切って、具を炒め、スパゲッティを入れて混ぜ合わせ、カゴメトマトケチャップで味付けをする。


考えてみたら、得意とは言っても、何も特別なことをしていない。

手際がいいだけ。

半年前までは、『卒業したら自分で生活するんだ』なんて妄想していたんだから、自分の料理の腕前に、うぬぼれ…みたいなものを抱いていたんだろう。

 

だとしたらーーほんとうに、料理ができるのはわたしの強みなんだろうか……。

 

一人で食べるナポリタンは、あんまり美味しくなかった。


同じ一人でも、喫茶店で食べるナポリタンのほうが美味しい……。

 

 

・迷いの中にいる葉山先輩。

・後編につづく